アンドリュー・マロニー(豪)がWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔にラブ・コール。井岡一翔は2020年末田中恒成に勝ったことで株が急上昇。統一戦を掲げる井岡に対し、マロニーの他、対抗IBF王者ジェルウイン・アンカハス(フィリピン)が名乗りを上げスーパーフライ級はかつてないほど盛り上がりを見せている。
今回は、井岡戦に名乗りをあげたアンドリュー・マロニー、IBF王者ジェルウィン・アンカハスを簡単に紹介。井岡、エストラーダ、ロマゴンを含めスーパーフライ級最前線の動向から未来を占ってみたい。
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目次
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アンドリュー・マロニーって誰
アンドリュー・マロニー
国籍 オーストラリア
年齢 29歳
身長 165cm
リーチ 165cm
スタイル オーソドックス
米リング誌 8位
ESPN 6位
プロ戦績 22戦21勝14KO1敗 KO率63%
アマチュア戦績 61勝19敗
アンドリュー・マロニーは、井上尚弥と対戦したジェイソン・マロニーの弟。オーストラリアの中流階級で育ったアンドリューがボクシングをはじめたのが13歳。アマチュアの国際舞台では世界選手権に出場し兄ジェイソンより実績を残している。
2014年、英グラスゴーで開催されたコモンウェルス・ゲームズにフライ級に出場し優勝を果たしプロへ転向。2017年、マネージャーのトルジ氏、兄のジェイソンと共に9月米カリフォルニアで挙行される「Superfly」のイベントを観戦するため渡米。
渡米の目的はスーパーフライ級王者らの視察だ。「Superfly」はWBC世界スーパーフライ級王者シーサケット、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、WBO王者井上尚弥らが集結したイベントだった。
ルイス・コンセプション(パナマ)、ミゲル・ゴンサレス(チリ)ら中堅選手をTKOで下すと、2019年、ESPN(米スポーツ専門チャンネル)と提携するトップランク(米有力プロモーター)と契約を交わした。
そして、2020年6月、空位のWBA世界スーパーフライ級王座決定戦をジョシュア・フランコ(米)戦が締結。序盤、有利に進めるも中盤以降フランコの反撃にあい11回にダウンを奪われ判定負け。プロ初黒星を喫している。
新型コロナウイルスが蔓延し中断していた北米のプロ・ボクシングが再開しジョシュア・フランコ(米)との再戦が2020年11月14日にセットされたが、無判定試合という最悪の結果に終わっている。
試合中、フランコの目が完全に塞がりレフェリーが偶然のバッティングだと主張しストップ。その後、現地コミッションとレフェリー陣営がフランコの目が塞がった原因を映像で検証したが、裁定は覆ることはなかった。
アンドリュー・マロニーの次戦は
井岡のWBO王座に関心を示すマロニーだが、直近でジョシュア・フランコとの第3戦目に臨むため先行きは不透明だ。
フランコとの再戦結果を不服としていたマロニー陣営は、フランコの負傷はバッティングではなく有効打によるものだと主張。弁護士を通じてコミッションに抗議していた。春頃にオーストラリアで再戦の交渉が進んでいる。
井岡にとってマロニーはメリットがある相手なのか
現時点で統一路線をかかげる井岡にとって無冠のマロニー戦を行うメリットは殆どない。ただ、国内でタトゥー問題がもちあがり日本離脱を示唆する井岡にとってマロニーは悪くないオプションだと言える。マロニーの母国オーストラリアはプロ・ボクシング人気は高く、海外路線を示唆する井岡にとってアウェイとなるが魅力的なオプションになるだろう。
マロニーは米トップランク社(有力プロモーター)と契約していることでプラットフォームも安定。試合が決まれば契約するESPN(米スポーツ専門チャンネル)が中継に動くだろう。しかも、オーストラリアは新型コロナウイルス封じ込めに成功している国の1つで新規感染者数は二桁台に収まり、プロ・ボクシング興行は有観客で行われている。
オーストラリアで人気のティム・チューは8月26日、クイーンズランド州タウンズビルに新設された32000人収容できるスタジアムで同胞のジェフ・ホーンと対戦。収容人数50%の約16,000人の観客動員を認め開催されている。
だが、井岡にってマロニーがそこまで優先度の高い相手とは思えない。31歳となりトレーナーのイスマエル・サラス氏は残り数試合であることを示唆。井岡にとって最優先は統一路線であることは間違いない。マロニーはスーパーフライ級では2次グループで井岡が照準を定めるWBC王者エストラーダや、WBAスーパー王者ロマゴンと比較しても世界的に評価されているボクサーではない。
そして、マロニーはフランコとの再戦を制したとしてもWBA(世界ボクシング協会)では2番手王者で、仮に井岡と実現してもスーパー王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が君臨していることから統一戦とはならない背景もある。
井岡の次戦は流動的となるだろう。他団体王者の評価と動向を見てみよう。
Sponsor LinkエストラーダはロマゴンとWBA・WBC王座統一戦
まず、井岡が照準をあわせるWBC、リング誌王座をまくリネラル王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、WBAスーパー王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)は米国で3月12日統一戦が決定し、その勝者は2人と対戦経験があるシーサケト・ソー・ルンビサイ(タイ)と対戦することが義務付けられ、現時点で井岡が直ぐ割り込むことが難しい状況にある。
井岡がエストラーダやロマゴン戦を強く臨む理由は、世界的に認められているボクサーだからである。もともと、井岡が現役復帰したのは強豪と戦うことに他ならない。米ロサンゼルスで挙行された軽量級イベント「Superfly2」を現地観戦した井岡は引退を撤回し現役復帰を宣言。井岡ジム離脱を決め当時、HBO(米プレミアム・ケーブルTV局)と協調関係にあったプロモーター、トム・ローフラー氏と契約しSuperfly3に参戦することが決まったのである。
エストラーダは北米で軽量級とはいえ世界的に評価が高い。米リング誌王座を巻き、PFP(パウンド・フォー・パウンド)ランクは8位、ESPNのPFPの格付けで9位にランクしている。ロマゴンはピークアウトした感はあるが、カリ・ヤファイ(英)に勝ち復調。エストラーダ同様、PFP上位にランクしていた時期があり評価は高く井岡が勝てばキャリア最大の功績となる。
Sponsor LinkIBF王者ジェルウィン・アンカハスって誰
ジェルウィン・アンカハス(ヘルウィン・アンカハス表記あり)
国籍 フィリピン
年齢 29歳
身長 168cm
リーチ 169cm
スタイル サウスポー
米リング誌 4位
ESPN 4位
プロ戦績 35戦32勝22KO1敗2分 KO率62%
アマチュア戦績 90勝5敗
そして、井岡にラブコールを送るのがIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)だ。同胞の世界的スター・マニー・パッキャオと近い体重でキャリアをスタート、サウスポー、強打者で観客を魅了するスタイルは「Next Pacquiao」なんて呼ばれた時期もある。
9歳でボクシングをはじめたアンカハスは国内のアマチュア大会で金メダルを獲得。17歳でプロ入、母国フィリピンでキャリアを積み15戦目でマーク・アンソニー・ヘラルドに判定負けを喫したがその後、マックジョー・アローヨ(プエルトリコ)への挑戦がまとまった。
フィリピンに大きな市場はないがアローヨ戦は首都マニラ開催で合意。オリンピアンのアローヨに大差判定勝ちしたが交渉は難航。興行権は入札となり、アンカハスのファイトマネーは僅か3750ドル(約40万円)だった。そして、マニー・パッキャオが設立したMPプロモーションズと契約を結んだことでようやくスポット・ライトが当たり始めた。
オーストラリアでパッキャオの前座で帝里木下をKOで沈めたアンカハスは、当時スーパーフライ級で猛威を振るう井上尚弥との統一戦が米国で挙行されるSuperflyの舞台で浮上したがまとまらなかった。
日本のメディアはアンカハスが「逃げた」と報じているが、アンカハスの状況を考えると井上戦に臨むメリットはなかった。最終的にトップランクと契約を結んだアンカハスの選択は間違ってなかった。あのとき、仮に井上に勝ったとしても小さなニュースで終わっていただろう。
軽量級の強豪を集めHBOが中継した「Superfly」は、フィリピンのスーパースター、マニー・パッキャオがオスカー・デラ・ホーヤのPPV前座でレジャバを下したような大舞台とは全く異なる関心の低い軽量級イベントだった。
当時、井上は日本では有名だったが、まだ国際舞台で戦った経験はなく北米ではボクシング・マニアのあいだでなければ殆ど知られてなかった。もちろん、YouTubeでは知れた存在だったが北米のボクシングシーンではメジャーではなかったことは事実である。
それに、アンカハス陣営はリスキーな井上戦で条件面で譲歩せざるを得なかっただろう。北米のプロモーターやHBOが招致に動く井上尚弥は興行のAサイドだ。興行規模をスケールダウンし報酬のかからない軽量級にシフトしたHBOは資金難であることが浮き彫りとなり、無名のアンカハスは足元を見られることが容易に想像できる。それでも、井上戦にカジをきる必要があっただろうか。
アンカハスは、英国でジェイミー・コンランをやぶり米トップランク社と複数戦契約を結ぶことに成功。トップランクーESPNという安定した大きなプラットフォームを手にしESPNデビューしたアンカハスの報酬は数百万円に上り。直近の船井戦ではキャリア最高となる17万5000ドル(約1930万円)の報酬を受け取っている。大幅にキャリア・アップに成功したといえる。
Sponsor Linkアンカハスの評価は
強打者アンカハスの評価は高いが天井気味だ。このまま防衛戦を続け勝っても評価をあげることは難しいだろう。そういった意味でWBO王者井岡一翔との統一戦は願ってもないチャンス。米リング誌など主力メディアのなかでも井岡対アンカハスを求める声は多い。
アンカハスは、米リング誌、ESPN(米スポーツ専門チャンネル)のSフライ級の格付けでは井岡の次点となる4位。ジョナス・スルタン、船井を下しているもの存在感を今ひとつ。エストラーダ、ロマゴン、シーサケットらビッグ・ネーム狩りが急務。陣営もバンタム級アップ前にビッグネームとの対戦を模索していることは間違いない。
もっとも、統一戦に熱心なのはアンカハスをプロモートするMPプロモーションズのショーン・ギボンズ氏のほうに見えるが。アンカハスは新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で延期されているジョナサン・ハビエル・ロドリゲス(メキシコ)との指名戦が4月にも行われる見通しだ。
Sponsor Linkスーパーフライ級4団体統一戦は実現するのか

source by :The Ring
可能性がある最良のシナリオは。
これまで、井岡を取り巻く環境を説明してきたが、優れた才能をもつ王者がいるスーパーフライ級でファンが求めるのは4団体統一戦だ。メジャー4団体統一はメリットがあるのか議論されることもあるが、これだけ強豪がいるなかで4団体を統一することの意味は大きい。
17階級を見渡してもこれだけの実績と人気をもつボクサーが揃っている階級は少なく統一戦の期待が高まっている。ホスト局の違いはあるにしても中量級ビッグネーム同士の交渉よりもまとめやすいといった背景もある。単なる功績ではなく統一すれば紛れもない”Undisputed Champion”、議論の余地のない王者が誕生する。軽量級史に名を刻み、殿堂入りも確実視される。
最良のシナリオは、井岡が夏頃にIBF王者と統一戦を行い、年末にWBA・WBC新王者と4団体統一戦を行うプランだ。願わくば、井岡とIBF王者アンカハス、WBC・WBA統一王者対シーサケット戦は同興行にセットしてもらいたい。
まず、WBA・WBCタイトルは3月12日、エストラーダとロマゴンで争われ、ドローや無判定試合にならない限りタイトルが統一され、致命的な怪我などがなければ夏頃に、シーサケットとの再戦がセットされるだろう。
IBF王者アンカハスは、4月に指名挑戦者ジョナサン・ロドリゲス(メキシコ)戦の交渉が進んでいる。井岡がIBFに目を向けるかはわからないが、8月か9月に北米もしくは日本でアンカハスとの統一戦が実現すれば面白い。
アンカハスはトップランク傘下で、エストラーダ、ロマゴン、シーサケットとは別リーグで同一興行へのセットアップは難しいが同一興行にすることで、青写真としては完璧だ。好き勝手に書いてきたがもちろん、パズルのピースがどう埋まるかは現段階では不透明だが、スーパーフライ級頂上決戦の結果が、後のバンタム級トップ戦線を占うえで重要であることは間違いない。
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