米リング誌は2019年11月7日、パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングを更新。ライトヘビー級に参戦しスペクタルなKO劇で勝利を飾ったメキシカンWBO世界ライトヘビー級王者サウル・カネロ・アルバレスが首位だったワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を2位に引きずりおろし1位に躍り出た。
筆者はカネロがPFP1位で異論はない。たが、2018年5月に決まっていたゴロフキン再戦前のドーピング違反や、コバレフのコンディショニング、カネロがPFP1位かどうか議論する余地は十分あるだろう。
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米リング誌のPFPランキングは以下の通り。
1位サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)
2位ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)
3位テレンス・クロフォード(米)
4位井上尚弥
5位オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)
6位エロール・スペンスJr.(米)
7位ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
8位ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)
9位アルツール・ベテルビエフ(ロシア)
10位マニー・パッキャオ(フィリピン)
カネロはライトヘビー級でも通用することを証明

photo by:boxingscene
コバレフがライトヘビー級で最強かどうかは別にしても、コバレフに明確に勝ったことでライトヘビー級戦線で存在感を強めたことは事実である。
ゴロフキンがDAZN(ダ・ゾーン)と契約したことで、2019年9月メキシコの独立記念日の週末にゴロフキンとの再戦が規定路線だと考えられていたが、DAZNはカネロを説得したが失敗。カネロは、ゴロフキンとの再戦を蹴り2階級あげセルゲイ・コバレフ(ロシア)戦に臨んだ。
オッズはカネロに大きく傾いていたが、2階級あげるカネロのパワーが通用するかどうか。老いたとはいえライトヘビー級住人のコバレフのパワーに耐えられるかオッズとは裏腹に多くの不安要素があった。
試合は、カネロがアウト・ボックスする見方もあったが、カネロはコバレフに圧力をかけていった。いくつもの迎撃ウェポンを備えるカネロ、コバレフは警戒していたのは間違いない。いつもの、破壊的なコンビネーションは影を潜め長いリーチでカネロの前身を阻み、着実にポイント・メイクするスタイルを選択した。
しかし、コバレフは手数こそ多いが的中率は悪くカネロに深刻なダメージを与えることは終始できなかった。コバレフより手数は少ないものカネロは正確性でコバレフを上回り、的確なジャブ、ボディがコバレフの体力を削っていった。
終盤、減速したコバレフはカネロに入り込まれるシーンも多くなりクリンチに逃れる場面も多くなってきたが、カネロはクリンチの際に僅かなスペースを作りショートの右フック、相手のジャブをホールドして右ボディ、と高度な切り返しでコバレフのクリンチを許さなかった。このあたりのスキルの高さは本当に関心させられる。
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試合が決着したのは11回、コバレフのクリンチをほどき右フック、左フックで追撃、右ストレートで落ちる寸前のコバレフの顎を打ち抜きKOで仕留めた。
カネロのPFP1位は妥当なのか
米リング誌のパネラー、米ESPNのアナリスト元統一ライトヘビー級王者アンドレ・ウォードも言及していたとおり、PFP首位の妥当性についてはセルゲイ・コバレフがカネロが戦った時点でどの程度の実力、戦力があったかが判断材料の1つとしてなるだろう。
ウォードは、PFPランクについて、階級アップした場合の対戦相手のキャリア、その時点での実力について言及。階級アップは称賛されるが多くのリスクを背負う。ただ、相手が全盛期を過ぎていた場合、当然そのリスクは減る。
カネロ陣営は勝てると判断して、コバレフ戦に踏み切ったことは間違いない。
ウォードが言及しているとおり、コバレフはアンソニー・ヤード(英)に勝ったが全盛期の勢いはなかった。エレイディル・アルバレス(コロンビア)に痛烈なノックアウト負けを喫しその後、ダイレクト・リマッチでリベンジは成功したが、アンドレ・ウォードとの2戦を含め、心身ともにダメージを受けていたことは否定できない。
もちろん、これまで積み重ねたキャリアがあったからこそヤードを仕留めることが出来たことは事実だが、スピード、スタミナ、パワー、かつてのクラッシャーの面影はなかった。そして、コバレフはアンソニー・ヤード戦からカネロ戦のトレーニングを開始するまでの期間は2週間しかなく、準備期間は十分ではなかった。
ヤード戦でのダメージを考えると最低で3ヶ月以上は試合間隔が欲しいところだったが、十分な休息がとれていなかった。ただ、北米のリング、カネロがAサイドで交渉の主導権を握っている。コバレフにとって不利な状況だったが、1200万ドル以上の報酬が手に入るカネロ戦を断るという選択肢はなかったはずだ。
すでに、コバレフは全盛期を過ぎライトヘビー級で当時WBO王者ではあったが、リスクはあるが狙い目だった。当時の状況を考えれば、WBC王座を巻きリネラル王者オレクサンドル・グウォジク(ウクライナ)を倒しWBC・IBF統一王者アルツール・ベテルビエフ(ロシア)が最強と考えて間違いない。
それでもかつてライトヘビー級トップとして一時代を築いたコバレフを、鮮烈的なノック・アウトで勝った意味は大きい。コバレフの戦闘力は落ちているとはいえ、圧倒的な体格差とパワー差があり、高い攻撃力、ディフェンス能力を誇るカネロだが、リスキーな闘いだった。コバレフは全盛期を過ぎ万全なコンディションでは無くPFPの採点として割れるところだろう。
今後、カネロがライトヘビー級に留まり北米で話題にならないベテルビエフと統一戦をすることはまずないと考えていい。次戦は、すでにWBO世界スーパーミドル級王者ビリー・ジョー・サンダース(英)戦が具体化しているという情報もあり、ミドル級に下げることはなく1階級下げる可能性は極めて高い。
カネロは4階級制覇したと報じられているが、WBA(世界ボクシング協会)のスーパーミドル級王座は実力者とはいい難いロッキー・フィールディング(英)から奪ったものだ。レガシーを追求するカネロであれば、スーパー王者カラム・スミス(英)と統一戦をしてもらいたいのが本音だが果たしてどうなるのか。
(Via:The Ring)
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