【結果】井岡一翔対田中恒成、背景から今後はどうなるのか

 ボクシング・WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが12月31日東京・大田区総合体育館で行われ王者井岡一翔が田中恒成から2度のダウンを奪い8ラウンドTKO勝ち2度目の防衛に成功した。8ラウンド、カウンターの左フックを炸裂。「格の違いを見せつける」と井岡が試合前、語っていたとおり有言実行。下から這い上がる田中にストップをかけた。

 勝った井岡は28戦26勝15KO2敗、田中恒成は16戦15勝9KO1敗(1KO)プロ初黒星を喫したが、まだ25歳。多くのことを学んだ田中のカムバックを期待したい。

Sponsor Link


Sponsor Link

井岡、田中戦は既定路線だった

 田中がスーパーフライ級階級アップを模索していたのは言及するまでもない。そして、このタイミングが最適だった。2019年大晦日ウラン・トロハツに勝った田中は、WBO(世界ボクシング機構)からスーパー王者へ認定されことで、井岡一翔へ挑戦できるポジションにいた。

 スーパー王者に認定されると上下階級の指名挑戦の権利が特権として与えられる。そして、WBOが井岡一翔に対し田中恒成との指名戦を命じたことで、2人が対決することは避けては通れない戦いだった。当初は、田中がスーパーフライ級でノン・タイトル(調整試合)を挟み、年末に開催する見方だったが新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で国内興行が困難になったことで、ダイレクトに戦うことが決まった。

勝てば世界的に注目される舞台にたてる

 近年、国内で数々の日本人同士のビッグ・ファイトが行われたが、軽量級日本人同士の戦いではトップ・オブ・ザ・トップ、史上最大級の戦いであることに議論の余地はない。しかし、この戦いはその先にあるスーパーフライ級ウォーズ頂上決戦の準決勝にすぎない。勝てば世界的に評価が高いボクサーとの事実上トップ対決に前進するからだ。

 2021年夏以降、スーパーフライ級王座統一戦の機運が高まっている。3月に北米で対抗王者WBC世界スーパーフライ級王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とWBA世界スーパーフライ級王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の2団体統一戦が決まっている。

 エストラーダ、ゴンサレスを中継するDAZN(ダ・ゾーン)と興行を仕切るマッチルーム・ボクシングは統一路線に関心を示し2021年以降統一戦の期待が高まっている。実際、マッチルームと提携するDAZN(ダ・ゾーン)はグローバル戦略を打ち出し京口紘人と契約。日本進出の可能性もあり、そうなれば、ゴンサレスやエストラーダのマッチメークもまとめやすくなるだろう。

Sponsor Link

勢いにのるのが田中恒成

Embed from Getty Images

若手でもっとも勢いがあるのが次代を担う田中恒成だ。ワシル・ロマチェン(ウクライナ)と並ぶプロ12戦目で3階級制覇を達成。今戦で井岡を敗れば世界最速最短4階級制覇という偉業を達成できる。

 井岡がキャリアの違いを指摘するとおり田中はロマチェンコとタイとなる世界最速最短3階級制覇を達成しているが、戦績や対戦相手は井岡のほうが分厚い。「接近戦でもロングでも俺のほうが上手いし。スピード、パワー、スタミナにおいても俺のほうが上だ。キャリア最大で人生を左右する戦い。勝ちを確信している」と米リング誌のインタビューで語っている。

 オッズは、田中に傾き海外メディアでも若干、田中有利な見方だ。だが、本当に田中が有利なのだろうか。田中は試合内容にムラがありディフェンスの穴も多い。潜在能力が買われ織り込んでいる感は否めない。

 確かにスピードは田中に分があるが、スーパーフライ級デビュー戦でパワー、フィジカルは不透明。「特別なことは何もしていません。115ポンドは僕にとって適正といえるでしょう。減量せずコンディションニングができるメリットは計り知れないです」。減量苦から開放された田中がどうなるのか。井上が2階級アップして、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦に臨んだように化け物になるのか。

 「スピード、パワー、スタミナの類で井岡よりも上であることに疑う余地はない。だが、今戦は重要なのはスキルになる。スマートな井岡と、自分のスキルセットを使って戦えると興奮しますね。彼にスマートさでも劣っているとは思ってない」と語る田中だが、これまでのキャリアで井岡のようなスマートでリングIQの高いボクサーと戦った経験はなく、それを裏付けできる試合があっただろうか。今戦はスピード、パワーだけでなく技術力や戦略が問われる戦いだった。

キャリア、スキルで上回る井岡一翔

Embed from Getty Images

 31歳全盛期の井岡は盤石なスタイルが特徴。スタイルはボクサーだが、アウトボックスもできる万能型。見切りの良さ、リスクヘッジ、戦術に長けている。スーパーフライ級にあげて以降、ドニー・ニエテス(フィリピン)には敗戦したが、マックウイリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)ら強豪に勝ち評価をあげている。

 ミニマム級で八重樫に勝ちWBA・WBC2団体を統一した井岡は返上。ライトフライ、フライ級へ階級をあげ3階級制覇を達成したが、井岡の評価は割れていた。実績、世界基準でいえばファン・カルロス・レベコ以外は格下と言わざるを得なかった。なかでも、ライトフライ級でKOの山を築くローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との指名戦を回避したことが、井岡の評価が割れるポイントだった。

 もちろん、井岡がロマゴンから逃げたわけではない。井岡陣営にしてみればまだ世界的な評価をえるまえのロマゴンと戦うメリットはない。リスキーなロマゴン戦であればそれなりの条件でなければ合意は難しかったはずだ。世界的にみれば待機料を支払い一旦、回避することは珍しいことではない。

 2017年井岡は引退を宣言したが、米ロサンゼルスで米プレミアムケーブルTVが中継するSuperfly2のイベントを現地観戦。現役復帰を決めたという。そして、2018年9月米ロサンゼルスで開催するSuperfly3のイベントに出場することを発表。引退を撤回した。

 はじめての国際舞台、井岡のキャリア第二章のはじまりだった。井岡は所属していた井岡ジムをはなれ、米ラスベガスでジムを構えかつて親交のあった名匠イスマエル・サラス氏をヘッド・トレーナーに迎え入れチームを刷新。もともと、井岡は小さい頃、イスマエル・サラス氏から教えを受けていたこともあり、井岡と相性が良かったのかもしれない。

 米国初戦は、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)のプロモーターとして知られるトム・ローフラー氏と契約を結び出場する運びとなった。

国際舞台で活躍した井岡は大きく成長

Embed from Getty Images

 米デビュー戦でマックウイリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)と戦うことが決まり驚いたファンも少なくない。ブランク明けに加えスーパーフライ級初戦、フライ級時代は圧倒的なスキルを誇示するものパワー不足が露呈していたこともあり懸念されることは多かった。

 アローヨは世界選手権に出場し金メダルを獲得したトップアマ。当時、PFP上位にランクしていたローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を苦戦させ、カルロス・クアドラス(メキシコ)に勝ちスーパーフライ級で存在感を示していた。

 Superflyは、HBO(米プレミアム・ケーブルTV局)が低予算興行を強いられ予算が安い軽量級にシフトした興行だったが、顔見せ的な相手は許されずそれなりの相手が要求されていたが、リスキーな相手だった。だが、米国デビュー戦の井岡は高額報酬はのぞめない。

 そして、井岡が米国路線にカジをきったアローヨ戦で受け取った報酬は僅か2万5000ドル(約280万円)。日本であればノンタイトルでもそれ以上は確約されるだろう。それでも、厳しい環境を選択したのは強豪路線を実現する他ならない。

 井岡は多少の被弾を覚悟しアローヨ得意の距離を潰し攻撃的に出た。これは、スタイル・チェンジというよりは井岡本人がもっていたもので、中間距離に強いアローヨ対策。サラス氏との戦略だったことは間違いない。3ラウンド、アローヨから、ダウンを奪い文句なしのは3−0の判定勝ちを収めた。

 HBOがボクシング中継から撤退を表明。Superflyシリーズは終わってしまったが、WBO上位にランクした井岡は舞台を中国マカオに移しベテランのドニー・ニエテス(フィリピン)と空位のWBO世界スーパーフライ級王座決定戦を争ったが一歩及ばずタイトル奪取ならなかったが、ニエテスがアストン・パリクテ(フィリピン)との指名戦に応じずタイトル返上。空位の王座決定戦をパリクテと争うことが決まった。

 パリテクはスーパーフライ級では無名で戦歴もあつくなかったが、同胞のニエテスを苦戦に追い込んだ相手でイージーな相手ではなかった。序盤、井岡はフレームと長いリーチに悩まされたが後半、挽回し一気に仕留め4階級制覇を達成。存在感を示した戦いだった。

 そして、2019年大晦日、WBO指名挑戦者ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)と指名戦に臨むことが決定。トップアマ、長身、サウスポーとやり難い相手だったが、3−0の判定勝ち。印象的なところは見せることができなかったが、納得できる勝ちだった。

井岡にとってどんな戦いなのか

「いつもの試合と何ら変わることはないよ。彼は若くスピード、パワー、速いコンビーションを放つ才能のあるボクサーだ」。井岡は、レベルが違うと強気な発言をしているが、田中を軽視することはない。

 井岡は、2021年他団体に君臨する名王者らとの統一戦実現まえの戦い。12ヶ月ぶりのサビ落としには田中は適任だが、負ければ全てを失う戦いだった。

井岡対田中 結果

 ”Styles make fights”、下馬評では若干有利な田中を井岡が圧倒。どちらが優れたボクサーだったかは明白だった。序盤、田中のスピードが試合を作る気配もあったが、井岡は丁寧にジャブをつきながら田中の攻撃パターンを収集。攻撃スタンス、アウト・ボックスとミックス・スタイルで臨み田中のパワーショットは鉄壁のディフェンスで外した。

 一方の田中はスピード、パワーに大きく依存したスタイル。スピーディーな攻撃は派手だが、ディフェンスを犠牲にしたスタイルはリスキー。ディフェンスの穴は以前からあったが今後、強豪クラスと渡り歩く上で改善が急務。消耗スタイルもキャリアに与える影響は無視できない。

 井岡はジャブを軸に距離を支配していった。田中は序盤、ステップ・インし強打を放っていたが、井岡のジャブでペースを乱され距離感を失った。井岡は、スペースを埋め顔面・ボディの打ち分け、接近戦では僅かなスペースを作りコンパクトな強打をコネクトし着実にダメージを与えていった。

 スピードは圧倒的に田中。開始から強烈な攻撃をしかけたことで、田中有利な展開になると予感したファンも多いだろう。1ラウンド、開始からステップ・インしワンツーが井岡の顎をかすめたが、瞬時にスリッピング・アウェーし軽減。両雄のスキルの差は顕著に現れた。

 田中がプレスをかけ強打を放つ一方、井岡は正確なジャブをコツコツと当てた。正面突破の田中に対し、井岡はサイド、バック、リングを広く上手く使った。距離が開くと速い田中に分があるが、打ち終わりのディフェンスはガラ空きという致命的な欠陥があった。

 3ラウンドすぎると井岡がペースをつかみはじめていった。これは井岡の戦略そのもの。アウト・ボックスも併用し上手く田中を前にださせ自分の得意の距離に引き込み、田中は前身するも距離感を失っていた。ここで目立ったのが井岡のディフェンス能力の高さだ。ブロッキングだけでなく、ロープ・エスケープ、ボディワークも上手く使い田中の強打を空転。ジャブで距離を潰し接近戦で効果的なパンチをまとめた。

 4ラウンド、プレスを強めた井岡は精度のジャブ、ワンツーとパワーショットをコネクト。優れたのはディフェンスだけではない。パンチも正確で精度が高い。田中はパワフルなショットを放ったが井岡のディフェンス・ワークに跳ね除けられた。田中がプレスを弱めると逆に井岡がプレスをかけ、インサイドに入り外からパンチをねじ込んだ。田中はスピードがあるが持て余していた。パンチの引き、オンガード・ポジション、打ち終わりが徹底している井岡を崩せずにいた。

 CompuBoxによると、井岡は492発中、174発(35%)、田中は521発中、89発(17%)。ジャブでも大きく上回り井岡が262発中73発(28%)、田中は274発中、23発(8%)、パワーショットは230発中、101発(44%)、田中は247発中、66発(27%)だった。

 そして、試合が動いたのが5ラウンド、田中は井岡を追いロープまでつめたが、狙っていたかのような右オーバーハンドから左フックのカウンターで痛烈なダウン。ゴングに救われた田中はコーナーに戻り「倒すしか無い」と口にしたが、王者を崩すプランBはなかった。


 6ラウンド、まだ生きてるパンチを放つ田中に対し、井岡は急がずジャブと接近戦で回転の速い連打でパンチでダメージを与え、接近戦で左フックのダブルで2度目のダウンを奪った。


 そして8ラウンド、完全に見きった井岡は、田中のワンツーをスリップし右ストレートから左フックでグラつかせフィニッシュにいくところ、レフェリー・ストップとなった。早すぎるという指摘もあるが、2度のダウンを奪われた田中は戦力を失い、これまでのダメージも蓄積され深刻だったことは見てわかる。あのまま続けていたらどうなるだろうか。

井岡の今後はどうなるのか

 井岡がターゲットとするのが、米リング誌の王座をかかえリネラル王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)だ。エストラーダは2021年3月WBA世界スーパーフライ級王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)と王座統一戦に臨むことが決まり、勝者との統一戦の期待が高まっている。

 流石にいまから、エストラーダ対ゴンサレスの興行に出場するのは現実的ではないことから、チューン・アップ戦を挟み夏頃に統一戦実現が最短ルートか。日本市場を模索するDAZN、マッチルーム陣営と協議するのかどうか。開催地はどこになるのか。まだ、交渉は始まってもないがエストラーダ、ロマゴン、何れとの戦いが決まれば世界的に注目されるファイトになる。

Sponsor Link
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. ちゃまめ より:

    読み応えがあり、素晴らしい考察でした。
    ありがとうございます。

コメントを残す

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください