「ノックアウトできると思ったけど、それが僕のゴールではないんだ」ディミトリー・ビボルは、ジョー・スミスJr.戦あとのリング・インタビューでこう語っていた。ファンにはどう映ったのだろうか。

 今タイトルマッチは、どう見てもビボルの勝利だった。しかし、完勝とはいえ慎重さが目立ち、スミスを最後まで追い込むことができなかった。12回、ダメージが蓄積したスミスをあと一歩のところまで追い詰めたが、印象的なシーンはここだけ、物足りなかった。

 WBA世界ライトヘビー級タイトルマッチが、米ニューヨーク州ニューヨークにあるターニング・ストーン・カジノリゾートで行われ、王者ディミトリー・ビボル(ロシア)が3ー0(2者118-110、119-109)の判定でジョー・スミスJr.(米)を下し、4度目の防衛に成功。プロ戦績を14戦全勝(11KO)とした。


Sponsor Link

ビボルがスミスに大差の判定で勝利

photo by:boxingscene

 殆どのラウンドをビボルが支配していた。鋭いジャブ、コンビネーションも速い。優れているのは攻撃だけでない。抜群の距離感を誇りブロッキング、パーリだけでなくフットワークも使いこなす。攻撃、防御ともハイ・レベルの選手であることは間違いない。

 対戦相手のジョー・スミスJr.は、3度目のアップセットは起こせなかった。米ニューヨーク、ロングアイランド出身。キャリアはそう厚くないが2016年6月、当時ライトヘビー級トップコンテンダーのアンドレイ・フォンファラを1回に2度のダウンを奪い勝利。大番狂わせを起こしその年の”アップ・セット・オブ・ザ・イヤー“を受賞。

 大番狂わせを起こしたスミスJr.は、ミドル、ライトヘビー級を統一したバーナード・ホプキンス(米)の引退試合を受けることが決定。ハングリーなスミスは躊躇なく攻勢に出て、8回ホプキンスに強打をヒットさせ、ホプキンスはリングに落ちそのままカウント・アウトされた。その後、スリバン・バレラに判定負け、顎の骨を砕かれ長期離脱を強いられていた。

 序盤こそ、スミスは強いプレッシャーをかけジャブを出し攻勢をしかけていくが、ビボルの厚いディフェンスにそれを阻まれた。ビボルは、ハードなジャブを上下に散らし、打ち終わりはステップ・バック、サイドへビジーに動き、スミスの打ち終わりに回転の速い連打をまとめ出鼻をくじいた。

 一方、スミスは28歳ながら熟練レベルにあるビボル相手に打開策を見出せずにいた。左の一撃をビボルに当て込もうとするが、ディフェンスを破ることはできなく、ビボルのハードなジャブで顎を跳ねあげられ、ジャブは右クロスで迎撃された。実際、序盤こそ攻勢をかけていたスミスだが、手数はビボルが圧倒的に多かった。

ビボルは手数で圧倒

 全ラウンドを通じて試合を作っていたのはビボルで異論はない。スタミナ切れもなく、パンチの精度も高い。トータルパンチは714発、うちヒットが208発で的中率は29%、一方、スミスは395発、うちヒットが39発で10%、ビボルは、ジャブ、パワー・パンチでも大きくスミスを凌駕した。

「良い防衛戦だった。ボクシングは、インテリジェンスでスマートなスポーツ。だからこそ考えなければならないんだ」
 確かにビボルのいうとおりだ。だが、米本土にバック・グラウンドがないボクサーがスターになるには、“ビッグドラマ・ショー”を公約に掲げ米本土で商品価値をあげたゴロフキンや、レジャバを下し軽量級スター候補に躍り出たパッキャオのようなリスクをテイクするエキサイティングなファイトも時に必要だ。

 相手の水準もあがったこともあるが、ビボルが注目された当時と比較すると、今タイトルマッチに加え、直近アイザック・チレンバ、ジャン・パスカルセ戦は完勝とはいえファンを魅了するには十分なパフォーマンスではなく、大きな課題は残したままとなった。

ライトヘビー級統一戦はどうなるのか

 ライトヘビー級の舞台はトップランク傘下で、統一戦実現の気配は全くない。他団体のライトヘビー級王者の殆どが、ビボルが契約したDAZN(ダ・ゾーン)とは敵対するトップランク社(米有力プロモーター)と契約している。なぜ、ビボルはDAZNと契約したのだろうか。

 ビボルが臨む統一戦実現は殆ど不可能だ。まず、現ライトヘビー級の他団体の王者をみてみよう。リネラル王者アドニス・スティーブンソン(カナダ)から王座を奪取したオレクサンデル・グウォジク(ウクライナ)は、トップランク社と関係の深いエイジス・クリマス氏が抱え初防衛戦はトップランクのイベントで行う
すでに決まっている。

 IBF世界ライトヘビー級王者アルツール・ベテルビエフ(ロシア)は、DAZNと契約を結んだがすでに契約は解除。まだオフィシャル発表はないがトップランク社と契約を交わしている。エレイディル・アルバレス(コロンビア)との再戦を制したWBO世界ライトヘビー級王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)もトップランク社と契約している。

ビボルはSミドル級へ参戦しビッグ・ファイト実現へ

 「もちろん可能だよ。168パウンド(Sミドル級リミット)を作ることができる。Sミドル級のチャンピオンが臨むなら準備はできている」

 ジョー・スミスJr.戦を控えたビボルはこう語っていた。DAZNと契約した理由は他でもない。Sミドル級でビッグ・ファイト実現のためだ。Sミドル級はWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)Sミドル級を制したWBA世界Sミドル級スーパー王者カラム・スミスが君臨している。

 現ライトヘビー級は東ヨーロッパ勢が制圧している。仮にコバレフ対ビボルが実現すれば、ファン待望のマッチメークだが、ヒスパニック・コミュニティに支えられる北米市場で需要があるだろうか。厳しい言い方になるが、話題にあがるビッグ・ファイトにはまずならないだろう。

 しかし、カラム・スミス戦となれば話は別だ。英国ではSミドル級は伝統的な階級、ボクシング・バブルの英国でスミス対ビボルがヘッドラインを飾れば、大きな話題を集めることができる。カラム・スミスはDAZNと契約したマッチルーム傘下の選手で、ビボルが臨めば合意も難しくない。

 それに、Sミドル級は今後大きな戦場になる可能性がある。WBAのSミドル級セカンドタイトルを抱えるカネロが階級をあげSミドル級に戻ってくる可能性もある。ゴロフキンもDAZNと契約を結び条件によってはミドル級に階級をあげることも十分考えられる。

 ビボルは、スミス、ゴロフキン、カネロ、ドル箱スターらと戦うチャンスがでてくることは間違いない。それだけに、ここ数戦のパフォーマンスでビボルの評価自体が伸び悩んでいるのは残念だ。

Sponsor Link

ビボルの関連記事はこちら

ディミトリー・ビボルがDAZNと提携するマッチルームと契約!

DAZN(ダ・ゾーン)に方針を決めたのはオファー金額だったのだろうか。米プレミアム・ケーブルTV局HBOがボクシング中継から撤退。フリー・エージェントとなっていたWBA世界ライトヘビー級王者ディミトリー・ビボル(ロシア)がマッチルーム・ボクシングと提携することが分かった。 Sponsor …

ビボルが元WBC王者パスカルを圧倒、今後のライトヘビー級の展望を占う

正統派スタイルのディミトリー・ビボル(ロシア)、ライトヘビー級では間違いなくトップレベルの実力者である。元王者ジャン・パスカル(カナダ)戦は、スリバン・バレラ(キューバ)、アイザック・チレンバ(マラウイ)とライトヘビー級コンテンダーとの戦いに続き、ビボルの力量を測るビッグ・テストだった。ただ、注目されれば、それだけシビアになり要求されることも多くなるのが必然である。 Sponsor Link

カネロがDAZNと3億6500万ドルの超巨額の契約を締結!特集記事!

Sミドル級進出でファンを驚かせたカネロ。世界中がどのホスト局と契約するかその動向に注目が集まっていた。噂されていた通り、カネロはDAZN(ダ・ゾーン)と契約を締結した。急速に変化するボクシング界、米プレミアム・ケーブルTV局HBOがボクシング中継から撤退を発表し、ネット配信大手のDAZNが米ボクシング界に参戦しデジタル配信の波も押し寄せ、米国のTV事情も大きな転換期を迎えている。今回は、カネ…

スティーブンソン、グウォジク戦後に危篤状態だったが回復

ボクシングは死と隣あわせ、レフェリー・ストップの是非の議論は終わることはないが、最悪のケースが起こることもある。35歳遅咲きのチャンピオン、元WBC世界ライトヘビー級王者アドニス・スティーブンソン(カナダ)が、一時は危篤状態だと報じられ昏睡状態だったが、回復したことが分かった。 …

Sponsor Link