ボクシングは死と隣あわせ、レフェリー・ストップの是非の議論は終わることはないが、最悪のケースが起こることもある。35歳遅咲きのチャンピオン、元WBC世界ライトヘビー級王者アドニス・スティーブンソン(カナダ)が、一時は危篤状態だと報じられ昏睡状態だったが、回復したことが分かった。

 米メディアによれば22日、スティーブンソンの家族が声明を発表。ガールフレンドは「アドニスが目を覚ましていることを明確にしたかった。」と述べ、ガールフレンドの母親は「彼は彼の家族と医師の献身的なサポートにより回復し、快気に意欲を示しています」。と述べている。

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 スティーブンソンは、2018年12月1日地元カナダでWBC暫定ライトヘビー級王者オレクサンドル・グウォジク(ウクライナ)と防衛戦を行い11ラウンドKO負けを喫した。その後、スティーブンソンを抱えるイボン・ミシェル氏から「アドニスは現在、病院の集中治療室で治療を受け深刻な状況です」。とソーシャル・メディアを通じて伝えられていた。

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スティーブンソン、グウォジク戦のダメージで危篤状態に

photo by:boxingscene

 ESPN(米スポーツ専門チャンネル)によれば、スティーブンソンはノックダウンを喫したあとドクター・チェックを受ける際、リングのコーナーにセットされた椅子に座れたという。しかし、控え室には自力で戻ることがきずその後、容態は急変した。

スティーブンソンは緊急搬送中に意識不明に

 「アドニスは現在、病院の集中治療室で緊急治療を受けている。アドニスには彼のファミリーが付き添っている。予断を許さない危ない状態だ。みんなのサポートに感謝しているけど、これ以上のことはプライバシーにも関わるのでコメントすることはできない」。

 スティーブンソンは抱えられ控え室に戻り、イボン・ミシェル氏と会話したあと、シャワーを浴び終え出てきた際、強いめまいを訴えていた。地元モントリオール・ジャーナルによれば、再び医師を呼び病院へ搬送することを決定。スティーブンソンは病院へ搬送中、救急車の中で意識不明になったという。

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最悪の事態は回避

 「アドニスの容態は安定している。彼は回復に向かうため鎮静状態にある。多くの人からの有り難いメッセージに感謝しています」。

 スティーブンソンは試合会場となったカナダ、ケベックにあるエンファント・ヘスス病院へ緊急入院。外傷性脳損傷と診断され緊急手術を受け、脳の腫れを抑えるため医学的に昏睡状態にあった。

 一時は、最悪の事態は回避されたと見られていたが、人工呼吸器が手放せない状況が続き、プライバシー尊重もあり経過が心配されていた。

今戦はどういった試合だったのか

 スティーブンソンは、今タイトルマッチから逃れることは出来なかった。WBC(世界ボクシング評議会)からの指名戦を幾度となく回避したスティーブンソン、グウォジク戦を回避すれば王座剥奪の可能性もあっただろう。
 
 WBCは6月18日、スティーブンソンに対しWBC暫定王者オレクサンデル・グウォジク(ウクライナ)/15戦全勝12KOと王座統一戦をするよう義務付けた。交渉は纏まる可能性は低く大方、入札になる見方をしていた。

 グウォジクはトップランク社(米有力ボクシング・プロモーター)と関係性のあるロマチェンコなどをマネージメントするエイジス・クリマス氏が統括。対してスティーブンソンは、トップランクと相反する米プレミアム・ケーブルTV局Showtimeと協調関係となるイボン・ミシェル氏がプロモートしていることから、交渉難航は必至だった。

 結局、交渉は纏まることなく入札。スティーブンソンをプロモートするイボン・ミシェル氏が、トップランクの入札額165万ドル(約1億8000万円)を上回る210万ドル(約2億3000万円)で興行権を落札した。

 米メディアによると、ヘイモンと密接な関係にあるTGBプロモーションズが310万ドル(約3億4400万円)最高額で入札したが、入札後数分で価格を引き下げたという。これにより、次点の落札者となるイボン・ミシェル氏が興行権を落札した。

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スティーブンソンの指名戦は5年ぶり

 実は、スティーブンソンは5年以上WBCの指名戦に応じていない。2013年6月、カナダでホプキンスを下しWBC、米リング誌の王座を保持するリネラル王者チャド・ドーソン(米)に勝ち、同年11月WBCから命じられたトニー・べリュー(英)戦以来指名戦を行ってない。

 当時、無冠だったWBO世界ライトヘビー級王者エレイディル・アルバレス(コロンビア)との指名戦を命じられたもの、スティーブンソン陣営は、アルバレス陣営に待機料を支払い回避してきた。今回のゴズディク戦を回避すれば、王座剥奪の可能性もあっただろう。

スティーブンソン、グウォジク戦はハードな一戦だった

 ライトへビー級に上げたバドゥ・ジャック(スウェーデン)戦に続き、WBC世界ライトヘビー級暫定王者オレクサンドル・グウォジク(ウクライナ)戦は、41歳を迎えるスティーブンにとって言及するまでもなくハード路線だった。

 WBC世界ライトヘビー級王者アドニス・スティーブンソン
 戦績:32戦29勝(24KO)2敗1分
国籍:カナダ
身長:180cm
リーチ:196cm
アマチュア戦績:33勝5敗
2004年ケベック州ミドル級チャンピオン
2006年コモン・ウェルス・ゲームズ銀メダル

スティーブンソンの過去は荒れ果てていた

 35歳遅咲きの王者となったスティーブンソン、一体どんな人生を歩んできたのだろうか。ハイチで生まれたスティーブンソンは、7歳のときに家族と一緒にカナダ、ケベック州にあるモントリオールに引っ越した。

 14歳になったスティーブンソンは、ストリート・ギャングの仲間入りを果たし生活スタイルが変貌する。1998年、売春斡旋、暴行、恐喝などの容疑で逮捕、起訴され有罪判決を受け4年間刑務所に服役。刑務所内で、仲間に暴行し昏睡状態に陥れているなど騒ぎを起こしている。

 「良い人生を歩もう」
 2001年釈放されたスティーブンソンは、2度と同じ過ちを犯さないことを誓った。具体的なプランなどはなかったが、戦うことが好きだったスティーブンソンは、ボクシングの道を歩むことを決意する。

 歴代の王者の中でも荒れ果てた生活を送っていたボクサーは多い。腐敗した承認団体や、歯止めが効かないPED(薬物問題)問題とクリーンなイメージが少ないボクシングだが、困窮した生活から抜け出す手段や規律を正すツールとして大きな役割を担っている一面もある。

27歳ではじめたボクシング

 世界チャンピオンになるにも時間は限られていたもの、ポテンシャルが高いスティーブンソンはハイ・スピードで成長を遂げていった。2004年にボクシングをはじめ、その年のケベック州で開催されたアマチュアの大会でタイトルを獲得、2005年世界選手権に出場するも一回戦で敗退した。

 2006年オーストラリアで開催されたコモン・ウェルス・ゲームズで決勝でジェロード・フレッチャーに敗れ銀メダルに終わったが、カナダ代表で唯一メダルを獲得したことが評価され、2005年、2006年のカナダ国内のベスト・アマチュア選手として選出された。

 2006年プロへ転向、ノックアウト勝ちを収めるもチャンピオンになるには圧倒的なスキルが欠落していた。2011年、スティーブンソンに転機が訪れた。エマニュエル・スチュワード氏と出会い、スチュワード氏がスティーブンソンのトレーナーになることを受け入れたのである。

 「エマニュエルを迎え入れることができたのは、人生の中でも贈り物でした。彼とは少ない時間でしたが、彼のおかげで私の人生は変わりました」

 スチュワード氏は2012年に他界してしまったが、数多くの名チャンピオンを教え殿堂入りを果たしている。トーマス・ハーンズ(米)、フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)、ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)らのトレーナーを務めていた。

恩師との別れ

 「彼に出会うことができ彼を知ることができて感謝しています」

 メンター的な役割を担うことでも知られるトレーナー、スティーブンソンはスチュワード氏とボクシング、人生について多くのことを対話した。スチュワード氏との出会いはスティーブンソンにとって大きな変化をもたらした。しかし、運命というのは残酷だ。スティーブンソンが王者になる前に2012年、スチュワード氏は他界してしまう。

チャド・ドーソン戦が決まる

 Sミドル級でタイトル挑戦が叶わなかったスティーブンソンは、ライトヘビー級に転向を表明。当時の最強王者チャド・ドーソン(米)戦が締結。スチュワード死後は、甥のジャワ・ヒルがトレーナーを務めていた。

 「パワーでボクシングは大きく変わる。もちろん、パワーだけに頼ることはないけど、最も重要なのはいつどんな時であっても相手を倒すことのできるパワーをもっていることだ」

 スティーブンソンはドーソン戦を前に米メディアにこう語っていた。間違いなくスティーブンソンにとって過去最高の相手だった。2013年6月、WBC世界ライトヘビー級王者チャド・ドーソンへ挑戦、何と1回1分16秒でドーソンを沈め35歳にして世界王者となった。この一戦は2013年米リング誌のノックアウト・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
 
 グウォジクはロンドン五輪ライトヘビー級で銅メダルを獲得、米リング誌でPFP傑作のWBA・WBO世界ライト級統一王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、クルーザー級4団体統一王者オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)と同じウクライナ出身のトップアマである。まだ、世界的な名声を得ていないものプロ通算15戦全勝。トップアマだけあり、 堅実な試合運びは王者らの脅威となる存在だった。

 現状、同胞のPFP首位のロマチェンコや、クルーザー級主要4団体の王座を総なめにしたウシクと比較すると、ライトヘビー級では存在感こそ薄いが米リング誌のライトヘビー級では、旧ソ連勢のIBF王者アルツール・ベテルビエフ(ロシア)を抑え、6位に付け米メディアの評価は高い選手だった。

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グウォジクがWBC王者に

挑戦者がスティーブンソンの主砲を抑え、序盤は一進一退の攻防

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 スティーブンソンは、グウォジクの執拗な攻撃を裁けるほどフットワーク、ボディ・ワークは機能せず、かつて挑戦者達をマットに沈めた左の主砲も影を潜めた。というよりも、ウクライナ人が主砲を抑えたといったほうが適切かもしれない。

 41歳を迎えたスティーブンソン、左ストレートの破壊力は健在そうだ。序盤こそ、グウォジクはスティーブンソンの主砲を警戒していたが出方を見ていたのだろう。あの左をまともに貰ったら倒れる。スティーブンの年齢を考え後半勝負といった戦略もあったかもしれない。

 初回、スティーブンソンが主導権を支配するも、3ラウンド開始直後グウォジクがダウンを奪い(実際はスリップ扱い)ペースはグウォジクに流れはじめたように見えたが、スティーブンソンも簡単には主導権を渡さない。グウォジクの打ち終わりに左のカウンターをセットし警戒させ攻め込ませない形を作り、どちらが有利とも言えないラウンドが続いた。

徐々にグウォジクのペースに

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 グウォジクはオリンビアンだけあり、攻防共にバランスが良い。今タイトルマッチに向けスティーブンソンの左対策を徹底したのがよく分かる。左はパリー、ステップ・バック、ヘッドスリップで上手く捌き、スティーブンソンの右側面に足を置き、スティーブンソンの打ち終わりを狙い、チャンスがあればコンパクトな連打を放ち、確実に王者の体力を奪っていった。

 6ラウンド以降は、これまでヘッド・ショット狙いだったスティーブンソンが、顔面、ボディと散らし戦略を変えていった。しかし、グウォジクもペース・アップ、序盤こそスティーブンソンの左を警戒していたが、王者の左に臆することなくカウンターの右と、近接戦ではコンパクトで回転の早いコンビネーションを纏め、王者にダメージを与えていった。

 一方、スティーブンソンは左のヘッドショットを狙うも、グウォジクのフットワークは落ちることなく、なかなか捕まえることが出来ない。初回は、ステップ・バックや膝を折り上手くグウォジクの攻撃を外していたもの、ガス欠かグウォジクのパンチに捕まるシーンが増えてきた。
 
 11ラウンド、スティーブンソンのダメージの蓄積とガス欠は明らかだった。10ラウンド、グウォジクを一瞬グラつかせるも仕留めることはできず、終盤にサイドに回り込まれ連打を浴びたスティーブンソン、これが決め手になったかもしれない。

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 依然としてゴズディクはコンパクトなパンチを的確に当て、ラウンド終盤、右のハードショットを貰った王者は一旦はクリンチで凌ぐも、ゴズディクの執拗な追撃を逃れる体力は残っておらずマットに沈んだ。

 スティーブンは2013年6月、当時リネラル王者でWBC、米リング誌のタイトルを抱えるチャド・ドーソン(米)から1回1分16秒で衝撃なノックアウト勝ちした時の印象がいまでも鮮明に覚えている。35歳で王者になったスティーブンソン、今は41歳。後遺症がないことを祈るばかり、今はゆっくりと休養してほしい。

(Via:ESPN)

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