Sミドル級進出でファンを驚かせたカネロ。世界中がどのホスト局と契約するかその動向に注目が集まっていた。噂されていた通り、カネロはDAZN(ダ・ゾーン)と契約を締結した。急速に変化するボクシング界、米プレミアム・ケーブルTV局HBOがボクシング中継から撤退を発表し、ネット配信大手のDAZNが米ボクシング界に参戦しデジタル配信の波も押し寄せ、米国のTV事情も大きな転換期を迎えている。今回は、カネロとDAZN契約の背景、米国におけるデジタル配信の状況、DAZNについて特集する。

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 メキシカンの象徴、サウル・”カネロ”・アルバレスが、英国パフォーム・グループ傘下で動画配信サービスを提供するDAZNと、スポーツ市場最大級の契約を結んだ。米ESPNによれば、カネロはDAZNと5年間11試合、最低報酬3億6500万ドル(約410億円)で契約を締結したという。

 この契約金額は、プロ・スポーツ史上最高額の契約で、2014年メジャーリーグのジャンカルロ・スタントンが、当時マイアミ・マリーンズと13年間、3億2500万ドルで、最高額の契約を結んだ契約金額を大きく上回る破格の契約である。

 米リング誌によれば、カネロの1試合の最低報酬金額は3500万ドル(約39億7000万円)だという。これはプロ・ボクシングで、2013年6階級制覇したフロイド・メイウェザーJr.(米)がHBOを離脱し、ライバル局のSHOWTIMEと6戦、最低報酬金額3200万ドルで電撃移籍した際の契約金額を凌ぐ金額となっている。

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カネロの今後はどうなるのか

 カネロが12月15日控えるWBA世界Sミドル級王者ロッキー・フィールディング(英)に勝つことが出来れば2019年9月メキシコの独立記念日にはビッグマッチが期待できるのだろうか。IBF王座を獲得したダニエル・ジェイコブス(米)ミドル級最大のライバル、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)を含め最新の動向を含め占ってみたい。

 カネロがフィールディングに勝てばSウェルター、ミドル、Sミドル級と3階級制覇を達成する。もちろん、フィールディングに勝ったとしても厳密に言えば3階級制覇と言えるかは疑問が残る。実際、WBAには賞金獲得トーナメントWBSSを制したスーパー王者カラム・スミス(英)が君臨していることで批判的な声も少なくない。フィールディングはセカンドタイトル・ホルダーで、米で最も権威あるリング誌をはじめESPN(米スポーツ専門チャンネル)など主要メディア他、IBFやWBOもセカンドタイトル・ホルダーは、規定でチャンピオンとしては認めていないことも背景にある。

 ただ、3階級制覇という記録達成よりも話題性に乏しいミドル級だけでなくSミドル級までオプションを広げる意味合いが大きい。今後は、米英をまたにかけるビッグ・ファイトの期待感が高まるだろう。DAZNは、Sミドル級傘下の選手を多く抱えるエディ・ハーン氏率いるマッチルーム・ボクシングとも契約を結んでいる。これからは、DAZN基盤でカネロをプロモートするGBP(ゴールデンボーイ・プロモーションズ)とのクロス・プロモーションが可能となる。お互いビジネス関係も良好なことから関係を強化してゆくだろう。

 実際、現ミドル級を見渡してもカネロと対戦が実現してビッグ・ファイトが成立する選手は少ない。フィールディングに勝てば、マッチルーム傘下の2019年5月シンコデマヨに同級IBF王者でニューヨーク、ブルックリンを拠点とするIBF世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブス(米)戦が第一オプションとして挙がってくるが、アウト・ボックス型のジェイコブスとの相性は良いとは言えない。

 ジェイコブスは、ゴロフキンが剥奪された空位のIBFミドル級王座を同門のデレイビャンチェンコと争い、接戦の末にIBF王座を獲得。米プレミアム・ケーブルTV局HBOと3試合を結んだ契約が満了し、今後は、何事もなければ所属するマッチルーム・ボクシングが契約するDAZNに移籍する公算が高い。

 ニューヨーク、ブルックリンのブラウンズ・ビル出身のジェイコブスは、順当にキャリア歩んできたがピログとの初の世界タイトルマッチでKO負け、再起を誓うもその矢先にガンであることが判明し復帰は絶望的だと言われたが、奇跡的に復活したミラクルマンである。

 米ニューヨーク在住ブルックリン育ちということで、米東海岸で圧倒的な支持があるかと言うとそうではない。ニューヨークの新たな拠点となったバークレイズ・センターのヘッドラインをかざるまで成長し一定の集客力はあるもの、ジェイコブス単体でのネーム・バリューはニューヨークはもちろん、まだ全国区レベルとは言い難い。

 ゴロフキン戦ではニューヨーク、マンハッタンにある殿堂MSGアリーナを満員にするほど観客を動員することに成功したもの、PPV(ペイ・パー・ビュー)は17万件と販売不振におわり、その後HBOと契約したもの視聴件数は伸び悩んでいた。

 王座返り咲となった同門セルゲイ・デレイビャンチェンコ(ウクライナ)戦の視聴件数は過去最低の視聴件数を記録している。米ニールセン・メディアリサーチによると、2018年10月24日米ニューヨークにあるMSGシアターで行われたIBFミドル級王座決定戦はピーク50万件前後と厳しい結果に終わっている。ジェイコブスは、直近HBOで行われた視聴件数も80万件前後と100万件の大台に届いてなく、人気、実力を兼ね備え無名選手相手でも100万件を越すゴロフキンの方が米本土では知名度が高い。

 実は、ジェイコブスはこれまでにもカネロの対戦相手に浮上したが交渉締結には至らなかった。2018年9月、カネロのドーピング違反によるNSAC(ネバダ州アスレチック・コミッション)によるサスペンド処分が溶け晴れてゴロフキンとの再戦交渉が再びはじまったが、交渉の進捗は思いのほか悪く破断寸前で、カネロの対戦候補としてジェイコブスが挙がっていた。

 一方、IBF王座を手に入れたジェイコブス本人は、以前はゴロフキンとの再戦を強く臨んでいたもの、ゴロフキンが無冠になったことで当然、稼げるカネロとのビッグ・ファイトを第一候補としてあげている。ただ、トラッシュ・トークを繰り広げたWBCミドル級暫定王者ジャーモール・チャーロ(米)戦にも関心を示している。もし、実現すれば現ミドル級でもっともフレッシュな好カードになるが、交渉は一筋縄ではいかないだろう。

 決戦地として挙がるバークレイズ・センターは超満員になり興行的にも好成績を収めることが期待できるが、ジェイコブスを抱えるマッチルーム・ボクシングはDAZNと契約、対してチャーロは対抗勢力の北米で影響力の強いアル・ヘイモン氏と契約しヘイモンへの忠誠心は高くShowtimeとライバル局同士で交渉難航は必至。マッチルームを主宰するエディ・ハーン氏がチャーロを引き抜きに成功でもしない限り実現は難しい。

 一方、カネロと濃厚な再戦を経た中央アジアカザフスタン出身のゴロフキンはHBOが撤退したことにより、現在はフリー・エージェント身である。東京ドームで、村田諒太(帝拳)と戦う計画が進んでいたが、村田が負けたことにより霧散。ゴロフキンがどのホスト局と契約を交わすかにより、今後のカネロのオプションだけでなくミドル級戦線が大きく変わってくる。

 ドイツと別れを告げ、米西海岸に上陸したものK2プロモーションズ、HBOと契約を結ぶまでは殆ど無名だった。無名時代を経て、HBOの売出しが功を奏しようやく米本土でビッグ・マネーを掴んだゴロフキン、求めるのは間違いなくビッグファイトだ。村田が負けたことにより、ゴロフキン陣営はカネロが契約したDAZNがトップ・オプションになる。DAZNとゴロフキンを抱えるトム・ローフラー氏が直接契約を得られるかどうか、そういった細かい話は置いておいても、よほどESPNやShowtimeから好条件のオファーをしない限りDAZNと契約する可能性は極めて高い。

「チャーロ戦はありえないよ」。
 2018年9月WBC(世界ボクシング評議会)の総会がキエフが行われ、WBCはこれまでのゴロフキンの功績に敬意を表しカネロの指名挑戦権をWBC暫定王者ジャーモール・チャーロ(米)と争うオプションを掲示したもの、どうやら、ゴロフキン陣営はこの指名戦に応じる気配はない。「ESPNとも話しているし、DAZNとも話し合っている。ジェームス・ラシュトンCEOからはオスカー・デラ・ホーヤ(GBPのCEO)か、エディ・ハーンを通して契約して欲しい旨を伝えられている」。

 一方、チャーロは、WBC指名挑戦権を獲得したもの当時WBC王者で3団体のベルトを保持するゴロフキン戦は実現しなかった。それもそのはず、2017年9月メキシコの独立記念日の週にゴロフキン対カネロのビッグファイトが決まったのが理由である。

 ビッグファイトになれば、承認料も桁違いになる。大金が動くボクシング界、いつの時代も優遇されるのは実力者ではなく人気者なのである。いまでは、4団体ある団体の中で指名挑戦者の権利が守られるのはIBFくらいだろう。ただ、WBC、WBA、2団体しかなかった時代と比較すれば、タイトル挑戦は格段にしやすくなっている。

 WBC指名挑戦権をもっていたものゴロフキンとの指名戦はビッグ・ファイトに阻まれ、WBCはチャーロに対し暫定王座を設置することで一旦事態を収拾。メヒコびいきのWBCは、ゴロフキンとの再戦を終えたカネロに対し次戦、選択防衛戦を承認、チャーロはビッグファイトが叶う兆しは全く見えない。

 そんな恵まれないチャーロは、ようやく名声をあげるチャンスが到来している。次戦は、12月22日米ニューヨークにあるバークレイズ・センターでウィリー・モンローJr.(米)/26戦23勝(6KO)3敗(1KO)戦と防衛戦を行うことが決まった。

 モンローJr.は、北米で知名度不足のチャーロの対戦相手にもってこいの相手である。実力者とのキャリアもあり、負けはしたものゴロフキン、元WBO世界ミドル級王者ビリー・ジョー・サンダース(英)と戦った経験がある。ここで、チャーロが印象的な勝ち方ができれば、ミドル級で実績を作ることはもちろん、知名度不足の課題もクリアできそうだ。
 
 チャーロは、米リング誌のミドル級6位、現ミドル級でとりわけ存在感は強いが、ミドル級ではタフネス、パワーと証明されてないことのほうが多い。現時点でゴロフキンの対戦相手として名乗りを上げるには時期相応な気もするが、ミドル級で真の実力を発揮してないことを含め、対ゴロフキン戦は興味深いマッチアップでもある。ただ、カネロとの再戦で30億円以上の報酬を手にしたと思われるゴロフキン陣営がチャーロ戦に関心を示すかは別問題だろう。

 「アンフィールドを埋め尽くすビッグイベントになるだろう」。
 マッチルームを指揮するエディ・ハーン氏は、ゴロフキンと英国リバプールに拠点を置きハーン氏がプロモートするWBA世界Sミドル級スーパー王者カラム・スミス(英)/25戦全勝(18KO)戦に強い関心を示している。

 英国のボクシング・マーケットは、今やボクシングの中心地である北米以上に急成長している。英国ボクシング界のアイコン的存在のジョシュアとの試合となれば、チケットはプラチナ・チケットと化す。9万人を所有できるウェンブリー・スタジアムのチケットが数時間で完売するほどの人気だ。

 ゴロフキンからすれば、Sミドル級初戦の相手として賞金トーナメントWBSSを制し米リング誌の王座でもあるカラム・スミス戦は、文字通りハイ・リスク、ハイ・リターンである。ミドル級でもフレームの小さいゴロフキンは大きなチャレンジとなる。

 スミスは身長191cm、リーチ198cmとSミドル級でもかなり大柄な部類にはいる。一方、ゴロフキンはミドル級でも小柄179cm、リーチ178cmで、スミスとは身長で約12cm、リーチで20cmの差がある。圧倒的な体格差は、ゴロフキンであっても簡単には埋めることは難しいかもしれない。ただ、それだけにスリリングな試合が期待できる。

 現状、ゴロフキンはカネロと同様に現状ミドル級でビッグマッチは成立し難いことを考えると、カラム・スミス戦はそこまで悪くないオプションである。ゴロフキンはカネロとの再戦に敗れはしたが、商品価値が著しく低下したわけではない。英国はケル・ブルック(英)戦以来となるが、高待遇で迎えられる可能性は高い。ゴロフキンにしてもリスキーだが得られるリターンは大きい。

 WBSSを制したスミスと無名時代を過ごしたアメリカで、HBOの助けもありようやくアメリカン・ドリームを掴んだゴロフキンが英国で戦うとなれば、北米でジェイコブスとの再戦や、チャーロ戦を選択するよりも、ビッグ・ファイトになり報酬も一気に上がるだろう。スミス戦をクリアすれば、カネロとのトリロジー・マッチや、英国へ主戦場を広げることも可能になる。
 
 ミドル級の中心地は米国に移り、タイトルホルダー達はカネロ以外は米国人だが、前述したとおり好カードが期待できるがビッグ・ファイトが成立する選手は実は少ない。IBF王者ジェイコブス、WBO王者デメトリアス・アンドレード(米)、トップコンテンダーのサンダース、ジェイコブスと好ファイトを繰り広げたウクライナ人のセルゲイ・デレイビャンチェンコ、WBC暫定王者ジャーモール・チャーロ(米)、村田からWBA王座を奪ったロブ・ブラント(米)と続く。こうして見ると、来年以降、カネロがミドル級にもどってくる公算もあるが、GBP、マッチルームがSミドル級まで視野に入れ、米英でのビッグファイトを模索することは間違いないだろう。

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DAZNはマッチルーム・ボクシングと契約を締結


 2018年9月に米国にローンチしたDAZNは、米英の2大スーパースターカネロとWBA・WBO・IBF世界ヘビー級王者アンソニー・ジョシュア(英)を支柱に収めることに成功。米国内でWBSS(賞金獲得トーナメント)の独占配信に加え、マッチルーム・ボクシング、GBPのイベントを配信することで今後、勢力を強めることは間違いない。

 2018年7月米ニューヨークで、英国ボクシング界の重要人物で兼ねてから米国ボクシング界に進出することを公言し、米国でパートナーとなるホスト局を探していたマッチルーム・ボクシング率いるエディ・ハーン氏が、パフォーム・グループと8年10億ドルというボクシング史上稀に見ない超大型契約を結んだことを発表した。

 「この予算は、HBOやShowtimeと合算した金額よりも高い」。

 エディ・ハーン氏が言う通り、マッチルームとDAZNの年間予算は1億2500万ドルで全盛期のHBOに匹敵する予算で、ここ数年のSHOWTIMEとHBOの予算を合算した金額より遥かに高い。DAZNは米国では月額9.99ドルで視聴できる。エディ・ハーン氏は、年間16のショーを米国で開催し、そのうち4つのビッグイベント、12のイベントをプレミアム・ケーブル水準のイベントにすると公約している。

 DAZNと大型契約したマッチルームだが、米国でイベント開催するにあたり、とりわけ米国マーケットで話題を呼ぶタレントが少なくイベント集客、視聴件数、興行成績への影響が懸念されていた。米メディアによれば、マッチルームとパフォームは8年間で契約を結んだが、最低保障期間は2年間で、結果が出なければ早期打ち切りの可能性もあるという。

 マッチルームは、米国で再度ボクシングを活性化させるため現在主要となっている米ラスベガス、ロサンゼルス、ニューヨークだけでなくシカゴ、ボストンやその他の州でもイベントを開催する方針を示していたが、米国で広告塔になる看板選手が不在だった。

 実際、マッチルーム傘下の選手を見渡しても有力選手は少ない。IBF世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブス(米)、WBO世界ミドル級王者デメトリアス・アンドレード(米)、元WBO世界ウェルター級王者ジェシー・バルガス(米)、IBF世界Sフェザー級王者テビン・ファーマー(米)、WBA世界Sバンタム級王者ダニエル・ローマン(米)と次々と契約したが、何れもビッグイベントのメーンイベンターとは言い難く、広告塔になる選手の獲得はマッチルームだけでなく、これはDAZNにとっても大きな課題だった。

 ただ、今回カネロ、GBP傘下の選手を集めたことで、DAZNの基盤はより安定するだろう。今後は、DAZNのイベントでGBP、マッチルームによるクロス・プロモーションも可能となる。WBSS(賞金トーナメント)を制覇した4団体統一王者アレクサンデル・ウシク(ウクライナ)とアンソニー・ジョシュア(英)など魅力的なマッチアップが可能となる。
 
 GBPは、元3階級制覇王者ホルヘ・リナレス(ベネズエラ)、元IBF世界ミドル級王者デビッド・レミュー、WBC世界Sバンタム級王者レイ・バルガス(メキシコ)、フェザー級トップ・コンテンダーのディエゴ・デラ・ホーヤ(メキシコ)、プロスペクトのライアン・ガルシア(米)などを傘下に収め、日本の帝拳プロモーションズや、キャシー・デュバ氏率いるメインイベンツ社とも親交がある。
 

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カネロがDAZNと契約した経緯

 DAZNがカネロと契約するにあたり、そう長い時間はかからなかった。それもそのはず、今やドル箱スターに成長したカネロ獲得にはDAZNの他にもESPN、Showtime、Turnerが名乗りを挙げていたのである。場合によっては入札になる可能性もあっただろう。

 もともと、カネロをプロモートするGBPのCEOを務めるオスカー・デラ・ホーヤ氏とDAZNの親会社パフォーム・グループの執行役員を務めるジョン・スキッパー氏は親交がり、交渉はスピーディーに進行した。

 ジョン・スキッパー氏は、DAZNの親会社パフォーム・グループに務めるが、以前は米でスポーツ専門チャンネルとして認知されているESPNのCEOを務め、ESPN時代にGBPがESPNと業務提携し「Golden Boy Boxing」を打ち出す際にデラ・ホーヤ氏とは親交があった。

 ESPN、Showtime、Turnerが名乗りを上げる中、パフォーム・グループのジョン・スキッパー氏はカネロの獲得方法を模索。パフォームは、コンテンツ拡充に繋がるGBPが権利を保有するおよそ7000時間以上に及ぶ試合の大量のアーカイブにも関心を示していた。

 スキッパー氏は、GBPのオフィスがある米カリフォルニア州ロサンゼルスに飛び、GBP副社長デビッド・テトロー氏、エリック・ゴメス氏と2時間30分に及ぶ会談を実施。話し合いは長時間に及んだが、GBPが保有する大量のアーカイブの権利を売却する同意を得られてた。

 大きな収穫を得たスキッパー氏は、その後ニューヨークのオフィスに戻る予定だった。しかし、GBPのオフィスを後にし、ロサンゼルス空港LAXエアポートのラウンジでニューヨーク行きのフライトを待っていたが、そのままロサンゼルスに留まることを決意する。

 今日のGBPとの会談で好感触を得たスキッパー氏は、DAZNが現時点で優位だと考え、競合となるESPNやSHOWTIMEとの交渉が進み具体化するまえに、カネロとの契約をまとめたほうが得策だと考えていた。

「私はどこにも行きません。オフィスに戻ります」。

 LAXエアポートから、ホテルに戻ったスキッパー氏は、早速GBPオスカー・デラ・ホーヤ氏、デビッド・テトロー氏へ連絡しカネロ獲得に向け本格始動する。翌日、昨日と同じスーツを着てGBPのオフィスに向かい、カネロとの契約に向け、秘密保持契約にサインした。

 GBP、カネロ陣営の希望を把握できたパフォーム・グループは、交渉締結に向け交渉期限を設け、GBPは入札制度にしないことに同意。GBPとの交渉は続き、パフォームの本部がある英国ロンドンで、サイモン・デンヤーCEO、ジェームス・ラシュトン氏と最終協議が行われた。

 それから数日後、ニューヨーク、マンハッタンにあるホテルで深夜に、オスカー・デラ・ホーヤ氏、カネロをサポートするチェポ・レイノソ、トレーナーのエディ・レイノソが見守る中、カネロがDAZNとの契約にサインした。

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契約にあたり懸念されていたことは

 もともと、カネロが12月15日マッチルームがプロモートするロッキー・フィールディング(英)と試合が決まったことで、 DAZNと契約する可能性は高かった。

 米国へ進出したDAZNはボクシングに大型投資することを決め看板となる選手を探していた。一方、GBPはHBOが撤退し新居を探していた。DAZN、GBP互いの利害は一致する。カネロ獲得には、ESPN、Showtime、DAZN、Turnerが関心を示していたが、カネロがホスト局と契約するにあたり、最も重要だったのはホスト局と直接契約できるかだった。

 ウォルト・ディズニー傘下で、米国ではスポーツ専門チャンネルとして高い認知度を誇るESPNは、数十年ぶりにトップランク社(米有力プロモーター)と契約を結び、動画配信サービスESPN+をローンチし勢力を増しているが、トップランクは、ミドル級では帝拳プロモーションズが抱える村田諒太、村田と同じロンドン五輪組でミドル級銀メダリスト、エスキバ・ファルカン(ブラジル)とミドル級ではタレントが枯渇している状況だった。

 オスカー・デラ・ホーヤ氏は、ESPNにカネロ契約の直接契約の交渉をするが、ESPNの重役はトップランクと提携することを望んでいたため破断。トップランクと業務提携することになれば、マッチメークの権限や興行権なども契約によっては縛られる可能性もありGBPとしてデメリットしかない。

 米プレミアム・ケーブルTV局Showtimeは、米国で有力選手を多く抱えるアル・ヘイモン氏と契約を3年間延長。2019年度のボクシング中継の予算は6000万ドルと過去最高の資金を投入している。ヘイモン氏は元GBPだったリチャード・シェイファー氏と共に、フロイド・メイウェザーJr.(米)の商品価値を最大化しPPV(ペイ・パー・ビュー)スターにした実績があった。

 しかし、ShowtimeはGBPに年数回のイベントを打診したが契約には至らなかった。オファーの詳細は明かされてないが、Showtimeがアル・ヘイモン氏が主催するPBC(プレミアム・ボクシング・チャンピオンズ)と契約していることから、興行権など契約するにあたり何かしら条件があった可能性はある。ただ、有力選手を多く抱えるがミドル級は、まだ単独でヘッドラインを飾れない米テキサス出身のWBC世界ミドル級暫定王者ジャーモール・チャーロ(米)とオプションは少なかった。

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カネロが契約したDAZNとは?

 DAZN(ダ・ゾーン)は英国パフォーム・グループ傘下の動画配信サービスで、世界7カ国に展開している。コンテンツ獲得には巨額な資金投入もいとわないことで日本では黒船と呼ばれている。近年スマートフォンが進化し、インターネットが急速に成長しメディアのあり方、視聴者の視聴方法も変化してきている。

 DAZNの最大の強みはインターネット配信できることである。利用者はスマートフォン、タブレットなどのデバイスを持っていれば好きな時間に場所を問わず視聴することができる。あまり浸透してないが、AppleTVやGoogle Chrome castを利用すればTVでも視聴することも可能だ。

 これは、地上波や衛星放送事業者にはない仕組みで、多種多様な利用者のニーズがある中で利用者の利便性は格段にあがる。実際、ニールセン・メディアリサーチによれば、スポーツ観戦において場所を問わず好きな時間に観たいというニーズは多いという。
 
 そして、何より登録を終えた段階で直ぐ開通できる点もネット配信の強みである。これまで衛星放送は、加入するまでにアンテナを用意する必要があったり環境によってはサービスを利用できないこともあったが、DAZNはスマホとネット環境さえあればネットで契約し直ぐに視聴することができる。
 
 見逃し配信機能があり生配信を逃しても後から見れる。録画という概念がなくなる点も地上波や衛星放送にないネット配信独自の機能でユーザーにとっては嬉しい機能だ。そして、地上波や衛星放送などではチャンネル数に制限があり同時に中継することが難しかったが、ネット配信にりサッカーや野球も時間に縛られることがなくなり、同時配信が可能となる。

 日本では、Jリーグの放映権を10年間で総額2100億円という破格のオファーを掲示し、事実上スカパーから奪いさり大きな話題を集めた。DAZNがJリーグの放映権を獲得し、その投資額に見合う利益を得られるか疑問視する声も少なくなかったが、DAZNは契約者数拡大の施策を次々と打ち出し新規ユーザーを獲得し拡大を続けている。

 DAZNはドコモと提携することを発表。これは、ドコモのユーザーに対し月額980円でDAZNを契約できる特別プランの提供を開始した。DAZNは様々なスポーツを見れるが月額1750円と決して安い金額ではない。このキャンペーンの反響は大きく新規ユーザー獲得に拍車をかけ、1年後には契約者数は100万人を突破した。もちろん、契約料はドコモとレベニュー・シェア(利益分配)してる関係上、全てがDAZN側の利益とならないが、ドコモとの提携は成功したといっていいだろう。

 さらに、DAZNはコンテンツも拡充している。2017年8月にはメイウェザー対マクレガー戦を日本で独占生配信、最近では村田諒太をアンバサダーとして、数億円規模のプロモーションを行い日本人の世界タイトルマッチをDAZNが独占配信するだけでなく、試合前のドキュメンタリーも作り単にコンテンツを配信するだけでなく、番組制作においても力をいれている。

 コンテンツ獲得にも積極的でUEFEチャンピオンリーグの独占配信権を獲得し、今後はさらにユーザー数が増えることが予想される。最近では、同じサブスクリプション契約タイプの音楽配信サービスSpotifyと提携しDAZNとSpotifyのプレミアムサービスを12ヶ月間、1750円で契約できるキャンペーンを実施している。(現在は終了している)

 DAZNが米国に進出し、ボクシングに巨額の投資をしたのは理由がある。欧州では、UEFAチャンピオンズリーグや、セリエAの独占契約を結んでいる。しかし、2018年9月米国へ進出したものDAZNは、米4大リーグ(MLB、NHL、NFL、NBA)の放映権は獲得できていない。これは、数年先まで放映権が握られているからである。

 一方、ボクシングは米国で低迷していると言われているが、スポーツの中でも根気強い人気がある。ここ数年MLB、NHL、NFL、NBAの放映権が高騰するなか、ボクシングの放映権は高騰せず安値な上に、高い視聴件数を獲得できる。スポーツの放映権が高騰し競争力がます中、ボクシングはいわば眠れるコンテンツだったのである。

 米4大リーグで言えば、米スポーツ専門チャンネルの大手ESPNは、2014年米大リーグ(MLB)の放映権を年間7億ドル、8年契約で総額56億ドル(約4400億円)という膨大な資金を投入している。実は、この放映権料は過去最高額で前回の放映権料3億5000万ドルから倍増、スポーツの放映権料はここ数年で高騰している。

 トップランクと数十年ぶりに提携したESPNが勢力を強めているように見えるが、実は新たな勢力に苦戦を強いられている。近年、放映権料が高騰した影響だけでなく、映画だけでなく独自コンテンツを動画配信するネットフリックスや、Amazonプライムが台頭し大きな打撃を受けている。

 2017年ネットフリックスのコンテンツ投資額は、63億ドルで米地上波CBSを抜き去り、ESPNの親会社ウォルト・ディズニー迫る勢いだった。そして、ネットフリックスの2019年の予算はディズニーを追い越し100億円を超える見通しで、もはやESPNだけでなく他の放送事業者を脅かすだけでなく、米国のTVのあり方を大きく変えるほどの存在となっている。

 実際にケーブルTVを解約し、ネットフリックスやAmazonに乗り換えるユーザーは多く、驚くほどのペースで加入者が減少している。米でテレビ視聴率を調査しているニールセン・メディリサーチによると、2011年1億人以上のユーザーを抱えていたESPNは、2017年9月には8722万世帯と13%下落したという。

 2017年4月、ESPNはリポーターやアナリストら100人を大量に解雇。ニューヨーク・タイムスによると大量解雇に踏み切ったのは近年の業績不振が原因だという。もちろん、これらの根本原因はESPNではなく、人々のライフスタイルが変化しインターネットの高速通信が可能となり、スマートフォンが進化したことも背景にある。

 eMaketerの調査によると2017年ケーブルテレビや、衛星放送事業者を解約した人は2220万人、前年同時期の1670万人と比較すると33%増えたという。今後も解約する人増える見通しで2021年に4010万人にのぼると試算されている。これまで、米国ではケーブルテレビに加入し家族でリビングなどで見るのが一般的だったか、全く利用しない人も増えている。2017年3440万人、2021年には4100万人を増えるという試算がでている。

 ESPNは、ディズ二ーの営業利益46%の収益をあげておりディズニーにとっての最重要部門であることは間違いない。動画配信サービスESPN+をローンチしたのは、ユーザー流出の歯止めの施策の一環だろう。こうした中、ESPNにとって放映権料が安く一定の視聴者を集めることができるボクシングは魅力なコンテンツだった言える。

 ESPNで中継されるボクシングの視聴件数は最低でも50万件で、定期的に60万件〜80万件の視聴件数を確保できている。WBO世界ウェルター級王者テレンス・クロフォード(米)や、WBA世界ライト級王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)戦となれば、視聴件数は一気に跳ね上がり200万件を突破する。

 この200万件という数値は、ESPNが中継しているNBAのレギュラーシーズンの視聴件数に相当する。ESPNとトップランクの年間予算は明かされてないが、仮に1億ドルだとしてもNBAの年間予算13億ドルもよりも遥かに安い。米4大リーグのコストが増し経営を圧迫する中、トップランクとの契約はESPNにとって魅力的だったはずである。

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大型投資したDAZNは資金回収をできるのか

 DAZNの親会社パフォーム・グループのオーナーの資産は210億ドル。豊富な資金があるDAZNだが、この先米国でボクシング・イベントが成功するかは不透明である。英国ボクシング界のアイコン、アンソニー・ジョシュアに加え、カネロという米国で最大の商品価値を誇るファイターと契約したとはいえ、資金を回収し利益を生み出すには、裾野拡大が大きな課題となる。

 カネロとDAZNは5年間で3億6500万ドル、単純計算すると資金を回収するには5年間で毎月60万人の新規契約者が必要になる。12月に米ニューヨークの殿堂MSGアリーナで行われるロッキー・フィールディング(英)戦でかなりの契約者数が見込めるが、欧州生まれのDAZNは米国ではまだ知名度は低く大々的なプロモーション必要不可欠、米国マーケットに浸透するには暫く時間がかかるだろう。

 12月には、これまでカネロの試合をペイ・パー・ビュー(PPV)で購入していた視聴者や、ボクシング目当てでHBOと契約していたユーザがDAZNに流れることで契約者の拡大が期待できる。これまで、カネロの試合は1試合80ドル前後でPPV(ペイ・パー・ビュー)を購入する必要があった。

 PPVシステムは選手やプロモーターには莫大な利益を生むが、とりわけ視聴者の負担は大きかった。HBOとの契約は月額15ドル、さらに年2回のPPVイベントを見るにしても別途160ドル以上支払う必要あった。しかし、DAZNは米国であれば9.99ドル12ヶ月契約したとしても120ドル前後で試合を見ることができ、ファンとしては嬉しい。

 DAZNと契約すれば、カネロの試合以外にもWBSS(賞金獲得トーナメント)、エディ・ハーン氏が主催するマッチルーム・ボクシング、GBPのイベントも視聴できる。今後、話題となるビッグイベントを定期的に開催することが出来れば、除々に米国マーケットに浸透していくことができるだろう。

 しかし、巨額の資金があるパフォーム・グループだが投資した資金を回収するまでに至ってない。ディリー・テレグラフ社によると、これまで投資した資金は2017年時点で26億ポンド、オーストラリア、ドイツ、スイス、カナダでローンチしたことで、900万ポンドから9000万ポンドに収益を上げたが、利益を上げるにはさらに新たな市場を開拓し新規利用者を獲得する必要がある。

 2018年9月、米プレミアム・ケーブルTV局HBOが、ボクシング中継から撤退することを表明。45年間、米国のボクシング界をけん引してきたHBOが幕をおろし、新しい時代が幕を開けた。ESPNがESPN+をローンチ、DAZNが米ボクシング界に参戦し、今後はデジタル配信の波が確実にやってくる。

 エディ・ハーン氏は、PPVビジネス・モデル終焉を宣言した。PPVビジネス・モデルが終わりとは言い切れないが、PPVモデルは前述した通り高額な故に視聴者が限定され、クローズドになってしまうデメリットの影響が大きい。その点、利用者にとって安値なDAZNのような月額定額制モデルは嬉しく普及もしやすい。

 もちろん、PPVほど資金をかき集めることは難しくなるが、DAZNのように世界展開し契約者数を増やしていくことが出来れば、多くの予算を確保することも理論上は難しいことではないだろう。実際、DAZNがどこまで米国のボクシング界に浸透するかは現段階では不透明だが、DAZNの資金力は驚異で米ボクシング界の新たな勢力となることは間違いない。

 はっきりいってライバルの米スポーツ専門チャンネルESPNデジタル配信や、プレミアム・ケーブルTV局Showtimeも安泰とは言い切れない。ESPNは、ESPN+をローンチしたが米国ではケーブルTV離れが深刻化している。急速なスピードで変化し数年先の未来は予測すら出来ない。

 米国だけでなく世界中でライフ・スタイルが変化し、急速なスピードでインターネット、スマート・フォンが進化し、これまでの常識は通用しなくなっている。今後は、資金力勝負な側面もある。同時にどれだけ魅力あるマッチアップを視聴者にどんな形で届けられるか、利用者に対しての利便性も求められる。2019年、各社生き残りをかけたサバイバル・マッチの幕開けである。

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