「来年の3月か4月に再戦する」

 村田諒太が王座から陥落したすぐに、村田を米国で帝拳プロモーションズと共同でプロモートする米トップランク社(ボクシング・プロモーター)ボブ・アラム氏は、はやくもメディアに対し再戦の意向を示し煽っている。村田の進退はブラント陣営との契約に再戦条項もあり今後、30日以内に結論を下すことになっている。

 一方、村田に勝利したロブ・ブラント陣営は、日本開催であっても再戦に同意する構えを示している。ブラントを抱えるグレッグ・コーエン氏は「ボブ(トップランク社のボブ・アラム氏)と村田戦の契約を交わす際に再戦条項に同意した。我々には、再戦が義務付けられている。村田陣営が再戦を臨めばとても嬉しいね」。と契約に再戦条項があったことを明かしている。

 「ロブは、村田のスタイルによくアジャストしたと思う。再戦は同じ結果になることを期待している。再戦が日本で行われれば米国で行うよりも有利になるだろうね」と第一戦からかなりの自信をつけた様子だ。試合結果から、WBA(世界ボクシング協会)からダイレクト・リマッチ(即時再戦)の承諾を得ることは難しいことから、村田陣営が再戦条項を行使すれば、おそらく互いに一戦挟んでからとなる。果たして、再戦は行われるのだろうか。

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村田が再戦を決めるにあたりメンタル面が不安視される

 プロ通算15戦、ミドル級真の強豪クラスとの対戦こそ少ないが、タイトル挑戦までしっかりとプロのリングに慣らし対戦相手も慎重に選んできた。しかし、キャリアを通じてここまで惨敗したことはなく、ブラント戦の完敗は再起を決断するにあたり不安材料となる可能性がある。

 これまで、ロンドン五輪を経てプロへ転向、プロデビュー戦以降は自分のスタイルを模索していた時期もあったが、ここ数年で村田は自身のスタイルを確立させた。階級屈指のフィジカルを活かし、強烈なプレスをかけ相手を後退させ、相手を消耗させ顔面からボディと上下にパンチを散らし最後に右のパワー・ショットで仕留めるシンプルなファイト・スタイルだ。

 現ミドル級で実績ある対戦相手は、元IBF世界ミドル級王者アッサン・エンダム(フランス)のみと強豪らとのキャリアこそ少ないが、米国で最も権威あるリング誌の村田の評価は高いものだった。ただ、一方で村田のキャリア不足を指摘する米メディアの声も少なくない。

 エンダムとの一戦目ではフットワークを駆使するエンダムに対し、焦らずリングをカットしエンダムを追い詰め、右のパワフルなショットでダウンを奪った。エンダム戦でフィジカル、パワー、村田のスタイルがミドル級で通用することを証明した試合だった。しかし、ブラントはその村田のスタイルを打ち壊したのである。

 「彼は基本に忠実でワン・ツー・スタイルのボクサーだね。彼は真っ直ぐにでてくる。そのスタイルが彼の良いところだけど、今まで村田が戦ってきた相手は、彼にとって丁度いい相手だった。彼らは、はじめから村田を恐れていたしね。俺は、村田のスタイルが多くの問題を抱えていると思っている」

 ブラントは、試合前にリング誌のインタビューで、村田のスタイルについて言及していた。話題はその先にゴロフキンの話題でもちきりで、ブラントは完全にアンダードッグだった。しかし、ブラントは村田を研究尽くしていた。村田の映像を何千回と見て、今タイトルマッチに文字通りボクシング人生をかけていたに違いない。

 最大のアドバンテージとなるスピードを最大限に活かし、圧倒的な手数とフットワークを駆使した。村田の入り込めないロングレンジからジャブを打ち、脅威となる村田の右のパワーショットはパーリー、フットワークで外し、打ち合いは避け村田のうち終わりを徹底して狙い撃ちした。スピーディーなジャブは、幾度となく村田の顎を跳ね上げ、村田の右のうち終わりにカウンターをセット、村田を再三にわたり苦しめた。

 従来の村田のスタイルが機能していれば、ロープに追い詰め勝機は十分にあった。しかし、村田戦の戦略をしてきたブラントのフットワーク、スタミナ、手数は最後まで落ちることなく機能し続けた。一方、村田は5回にチャンスがあったが、仕留めることはできなく、自慢のスタイルは完全に機能不全に陥った。

 驚異的なスタミナを見せたブラントの手数は、CompuBoxによると1262発だった。これは歴代のミドル級タイトルマッチで歴代2位の記録となっている。驚異的なスピードはブラントが主導権を握ったことも関係しているが、ブラントは最後までスタミナを保てたのは山でのハードな走り込みがあったと話している。

 米ラスベガスから約50kmに位置する標高2,289mのマウント・チャールストンで走り込みのトレーニングを行っていたという。そして、今回スパーリング・パートナーとして現ウェルター級で最も評価の高いエロール・スペンスJr.を招聘。スペンスはサウスポーの強打者で、左右のパンチの破壊力は階級屈指でプレスの掛け方もうまい。スタイルこそ、サウスポーだがスペンスと手を合わせたことは貴重な経験になったことは間違いない。

 ジャブとフットワークで村田を翻弄、終盤には村田にハード・ショットを浴びせ村田をグラつかせるシーンも見せた。村田は良いところがなかったわけではないが、信じていたスタイルが殆ど通用しなかったことは、再戦へ向け村田自身のメンタル面への影響は無視できない。

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村田はブラントとの再戦しか道はない

 欧米の選手らが中心となるミドル級の中心地は北米である。プロモーターの思惑が交錯し、優先されるのは商品価値が高い人気のある選手だ。再起するにしても、北米の地にバックグラウンドがない村田のような日本人が再び世界挑戦を手にすることは容易ではない。現状で再起するのであればブラントとの再戦しか道はない。

 現在、ミドル級の中心地は北米にある。軽量級の場合、日本は経済力があり大きなマーケットを持っている。よほど、ショッキングな負け方でなければ本人が希望すれば再起戦を経て、再び世界タイトルマッチのチャンスを掴むことも可能だろう。

 しかし、中量級ミドル級では事情が異なる。舞台は北米で有力プロモーター達の思惑が交錯し、数十億円の巨額の大金が動くのがミドルだ。米国に拠点を置く階級屈指の強豪達を日本に呼び込むことは、村田の商品価値が下がったことで尚更難しくなったことは間違いない。

 再起の道として他団体のIBF(国際ボクシング)やWBO(世界ボクシング機構)の指名挑戦者を目指す道もあるが、32歳の村田にとって残された時間は少なく現実的ではない。仮にミドル級で指名挑戦権を獲得しても、1年以上待たされることはザラだ。10月27日空位王座決定戦が決定したデレイビャンチェンコは実に一年以上待たされている。指名挑戦者になるためには、統括団体のランキングをあげるしかなく数戦は勝ち続ける必要がある。しかし、それもいつ世界挑戦ができるか保証は全くない。

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カネロを取り巻くミドル級の情勢

 現ミドル級は、WBA、WBC王座を統一したメキシカンの象徴であるカネロを中心に動き、タイトルホルダーらは米国の選手である。統一戦の動きもありトップ戦線から離脱した村田が入り込める余地は殆どない。今後のミドル級戦線を見てみよう。

 10月27日米ニューヨークで空位のIBFタイトルマッチが、元WBA世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブスとセルゲイ・デレイビャンチェンコで争われることが決まっている。WBO王者は、10月に王座決定戦が行われデメトリアス・アンドレードがカウトンドクワを下し、王座獲得に成功している。

 ジェイコブスとWBO王者アンドレードを抱えるプロモーターは、2018年7月にDAZNと大型契約を締結し、米国ボクシング界に新規参入を果たしたマッチルーム・ボクシングを取り仕切るエディ・ハーン氏である。エディ・ハーン氏は、DAZNと8年1000億円という巨額の契約を果たし米国ボクシング界で勢力を強めているが、課題がないわけではない。DAZNの親会社パーフォーム・グループがボクシングに巨額の資金を投資をしたのは、米国の4大スポーツの放映権が既に数年先まで握られていたことが背景にある。

  年間予算は1億2500万ドル、米4大スポーツMLB、NBA、NHL、NFLと比較するとボクシングの放映権は安いが今後は、米国DAZNの加入者を増やすことは急務だ。話題を集めることができる魅力的なマッチアップには、有力な人材確保が求められる。

 ジェイコブスが勝ち上がった場合、二人の商品価値を最大化し将来的には王座統一戦も高まるだろう。そして、村田と対戦する噂があった元統一王者ゲンナディ・ゴロフキンは、カネロとのトリロジー・マッチを追いかけDAZNと契約する可能性が高くミドル級のトップ戦線は米DAZNに集約される公算が高い。

 カネロが12月15日WBA世界Sミドル級王者ロッキー・フィールディングに負ければカネロが保持しているWBA、WBCは空位となる可能性はある。仮にカネロが負けた場合や、ミドル級王座を返上した場合はどうなるのか。

 WBCは暫定王座ジャーモール・チャーロが正規王座へ格上げされることはほぼ間違いない。WBAは空位となり王座決定戦が行われることになるが、ブラントに完敗した村田は恐らくWBAトップランキング圏外、たとえWBAランクに入ったとしても上位に食い込むことは難しく王座決定戦を掴むことは困難だろう。

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村田の進退は

 再起するにあたり、まず一番重要なことは村田のメンタル面である。米ラスベガスの大舞台で結果を出せなかっただけでなく、自分のスタイルが通用しなかったことは、今後の決断を出す上で大きく左右するだろう。そして、ゴロフキンとのドリーム・マッチが消え何を目標に定めるかだ。

 とはいっても、現時点ではブラントとのリマッチ以外に現実的なオプションはない。村田が体調不良で調整が十分でなかったという報道もある。それが、今戦で随所に出ていたと指摘する声もあるが、実際リマッチをしても制することは難しいと見解を示す声も少なくない。

 ブラント戦は通過点のはずだった。その先には、カザフスタンの戦士ゲンナディ・ゴロフキンと東京ドームで戦うという前人未到の大規模なプロジェクトが進行していたからである。米リング誌によると、ゴロフキン戦は関係者のあいだで1年以上も話し合われ続けていたという。今タイトルマッチは言うまでもなく村田のキャリアで最も重要な一戦だった。

 今戦はDAZNがストリーム配信。DAZNのプラットホームは最適だった。いつもならフジテレビが中継するはずだが、DAZNで配信することが最適だと関係者のあいだで話し合いのもと合意したのだろう。実際、日曜日の正午であれば視聴率はプライムタイムほど期待はできない。DAZNは、いつでも、どこでも観れる。そして、見逃し配信で後からでも観れるという今の時代にあった地上波にない強みを持っている。

 気づいた人も多いと思うが、地上波のCMに加えいたる所でプロモーションが行われていた。DAZNは数億円規模の広告費を投じている。もちろん、日本でスポーツの枠を超えた存在である村田のタイトルマッチをストリーム配信することが決まり、新規契約に繋がるが先行投資の意味合いも強かったはずである。村田をプロモートする帝拳プロモーションズと、サポートする電通、フジテレビ、WOWOW、そして村田はDAZNのアンバサダーを務め利害関係は複雑だが、関係者が協力し東京ドーム構想を実現さようという強い思いもあったことは間違いない。

 村田はミドル級のタイトルを獲ることだけを目標としてきたわけではなく、その先にあるゴロフキンとのドリームファイトに定めていたはずである。ゴロフキンとのファイトは村田自身が求めていたものであることに違いないが、もう1つ村田自身が広告塔になり日本のボクシング界を活性化させるという大きな役割があった。

 しかし、それもブラントに完敗し白紙になってしまった。ボブ・アラム氏の再戦発言もそうだが、本人の意思とは関係なくプロモーターの発言が独り歩きし、大金が動くミドル級は様々な思惑が交錯する。アスリートとしてプライム・タイムを迎えた32歳、どういった結論をだすのだろうか。

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