アジア人対決、シーサケット対アンカハス統一戦の機運が高まっている。2017年9月米ロサンゼルスで軽量級の祭典Superflyが開催され、これまでローマン・ゴンサレス(ニカラグア)対井上尚弥の軽量級ドリーム・ファイト実現の期待感が高まっていたが、シーサケットがゴンサレスを粉砕したことで井上尚弥とのドリーム・ファイトが消滅、ビッグファイトの話題でもちきりだったが急激に話題が減ってしまった。今後のSフライ級トップ戦線を占ってみたい。

 実現すれば、現スーパーフライ級最大のマッチアップといっても過言ではない。かつて、ごみを漁り生活をしていたシーサケット/51戦46勝(41KO)4敗(2KO)は今や米リング誌のチャンピオンとなり、PFPにランクするまで上り詰めた。当時PFPキングのゴンサレスと戦い2連勝、再戦でスピード、パワー全てにおいてゴンサレスを凌駕しPFPキングをリングに沈めた。その後、リング誌で評価の高いメキシカンの強豪エストラーダを退け115ポンドでエリート・クラスであることに議論の余地はない。
 
 対して、IBF王者で米リング誌3位につけるジェルウィン・アンカハス(フィリピン)/33戦30勝(20KO)1敗2分は、階級屈指のパンチャー、アグレッシブで後退を知らないシーサケット戦はノックアウト決着も期待できる。決まれば年間最高試合となりえるボクシング・ファン待望のカード、2019年以降に実現の期待は高まる。

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アンカハスはESPNと契約

 まず、日本のボクシング・ファンであれば、アンカハスに対して不信感を抱くファンも少なくないだろう。日本のメディアによれば当時WBO王者だった日本が誇るモンスター井上尚弥との統一戦の交渉が具体化し基本合意したが、契約直前で破断したという。それも1度ではない「逃げた」と言われても仕方がない。

 実際、アンカハス陣営も前向きで交渉はHBOが中継するSuperfly2の舞台で計画され進められていたが纏まることはなかった。2017年12月アンカハスは米トップランク社と契約を果たし、井上尚弥との統一戦は事実上消滅した。アンカハスは多くのフィリピーノと同じく貧困育ち、貧困から脱出し豊かになるために始めたボクシング、稼いでおきたいといった考えもあっただろう。
 
 アンカハスは26歳で成長途中、トップランク社アラム氏の言う通り、ポテンシャルは高く磨けばダイヤになる可能性を秘めている。フレームも大きく将来的にはバンタム級進出も期待できるだろう。米国ではオリンピックでメダルを獲得し将来有望とされても、プロで慎重にキャリアを積ませるケースは珍しくなく、アンカハス陣営がリスキーな井上尚弥戦を一旦回避し、安定するマッチメークを求め米トップランク社と契約したことは理解できる面もある。

 アンカハスは、同法のレジェンドであるマニー・パッキャオが運営するMPプロモーションズと契約を結んでいる。マックジョー・アローヨへ挑戦した時の報酬はなんと3700(約40万円)ドル、軽量級とはいえ信じられないほど低い報酬だった。これには、IBFの指名戦で両陣営の交渉がまとまらず興行権が最低落札額の2万5000ドル(約280万円)でアローヨ陣営が落札したのが背景にある。

 ただ、興行権を落札したのはアローヨのマネージャーを務めるヘイモン氏とビジネス関係にあるサンプソン・リューコイッツ氏で、北米でヘイモン氏が主宰するプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)で進められるとみられたが、アローヨの負傷もあり結局は纏まらなかった。

 井上尚弥戦を回避しトップランクと契約したアンカハスは、正解だったかもしれない。有力プロモーターと手を組んだことで北米でのマッチメークも有利に働き、基盤は俄然安定したことは間違いない。トップランクは、数十年米プレミアムケーブルTV局と提携してきたが、トップランクは、イベントがコンスタントに行えないことからHBO脱却を決め、数十年ぶりにESPN(米スポーツ専門チャンネル)と複数年契約を締結した。ESPNは2018年にストリーミング配信サービスESPN+をローンチ、ディズニーをバックに存在感を高めている。

 世界的にもスポーツのストリーミング配信は潮流となり、Amazonプライム、DAZNをはじめ、テニス、NFL、プレミア・リーグとコンテンツは争奪戦、すでに覇権争いがはじまっている。コンテンツを充実させるためESPN、トップランクの連合軍は、英国フランク・ウォーレン氏が率いるクィーンズ・ベリープロモーションの米国での放映権を獲得、HBOから離脱した選手の獲得に躍起である。

 アンカハスは、2017年英国ベルファストのSSEアリーナでジェイミー・コンラン(英)に勝ちトップランクと複数戦契約を締結。ESPN+をローンチしたトップランクーESPN連合が続々とイベント開催を決めたこともあり、2018年2月米テキサス州コーパスクリスティにあるアメリカン・バンク・センターでイスラエル・ゴンサレスで全米デビューを果たした。

 その後、5月にIBF指名挑戦者ジョナス・スルタン(フィリピン)、9月にアレハンドロ・サンチャゴ(メキシコ)と防衛戦が決まり、途切れることなく試合を消化し、次戦は米オークランドのオラクル・アリーナでアレハンドロ・サンチャゴ(メキシコ)を相手に防衛戦を行うことが決まっている。北米で有力プロモーターのトップランクと契約したことにより報酬も安定している。

 初防衛は4万ドル(約436万円)、2度目の防衛戦は6万ドル(約654万円)、3度目の防衛戦で8万ドル(約872万円)、最新のスルタンとの指名戦で7万5000ドルの報酬を受け取っているが、実際には北米で知名度をあげたシーサケットやエストラーダよりも報酬は少なく報酬アップはビッグネーム狩りが急務だろう。

 シーサケット対アンカハス戦は、報酬次第で実現の可能性はありそうだが、アンカハスがトップランクと契約している関係上、シーサケットはESPNの舞台にあがることが前提条件となる。ファンからすれば好カードであるが、米国内でアジア人対決の需要を考えると厳しい面もあり、イベント全体のマッチメーク、開催地を含めどこでまとめるか興味深い。軽量級は報酬が低く米本土で商品勝ちを上げたシーサケット、アンカハスに適正な報酬が支払われるか懸念されるが、ESPNはスポーツに莫大な投資を続け、ボクシングにも投資し積極的にコンテンツを増やしていることから、そんな心配は無用かもしれない。

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シーサケットはONEと契約

photo by:boxingscene

 一方、シーサケットは2018年9月9日米ロサンゼルスで行われるSuperfly3のイベントでエストラーダとの再戦が確実視されていたが、急転直下ONEチャンピオンシップと契約し次戦は母国タイで防衛戦を行うことを決めた。これは、まったく予想外の動きだった。

 「誰とでも戦う準備はできている。地球上の115ポンド(Sフライ級)のファイターで誰も恐れることはない」

 何しろ、ロマゴンとの連戦を経て、WBC(世界ボクシング評議会)からエストラーダとの指名戦を強いられたシーサケットは、WBCが選択防衛戦を認めていたが、イージーな対戦相手より強豪との対戦を辞さない姿勢を示し、判定結果に納得のいかないエストラーダとの再戦の受け入れを歓迎していたのである。

 初戦は、ヒスパニックが多く居住する南カリフォルニアにあるフォーラムでSuperfly2のイベントのメインイベントで行われた。しかし、ロマゴンがトップ戦線から離脱、井上尚弥はバンタム級へ転向、著名なタレントを失ってしまった。ただ、シーサケットはカリフォルニアの地にバックグラウンドはなくヒール的な存在だが、開幕イベントでロマゴンを粉砕し米国ファンに大きな存在感を示した。クアドラスに勝ちカリフォルニアの地に大きなファン・ベースがあるメキシカンのエストラーダとの対戦は話題性は十分だった。

 集まった観衆はSuperfly開幕イベントの7,418人を超え、7,827の観客を動員、視聴件数は前回の数値を超えることはできなかったが、75万3000件と好調な数値をキープ。メインイベントにセットされた共に米リング誌でも高評価をえているシーサケット対エストラーダ戦は、前評判どおり一進一退の攻防、シーサケットのパワーショットを引き出しの多い技巧派エストラーダが迎え撃つ構図となり、ファンの期待どおり年間最高試合にノミネートされる激闘だった。

 「再戦は誰もが望んでいる戦いだ。この戦いは年間最高試合の1つで、ファンは再びシーサケット対エストラーダのノン・ストップ・アクションをみたいはずだよ」

 初戦同様、好ファイトが期待できる再戦だけにSuperfly2を主宰したリード・プロモーターのトム・ローフラー氏は、試合後のインタビューでメインイベントにセットされたシーサケット対エストラーダ戦を高く評価し、はやくもSuperfly3の舞台で2人の再戦を匂わせていた。

 再戦は言うまでもなく規定路線だった。ところが、米国で商品価値を跳ね上げたタイの英雄は、アジア圏で勢力を拡大するONEチャンピオンシップと契約することを発表。シーサケットが所属するナコンルアン・プロモーションズと業務提携し、10月6日に母国タイでアイラン・ディアス(メキシコ)を相手に凱旋防衛戦を行うことを発表したのである。

 シーサケットがSuperfly3を離脱したことは予想外だった。シーサケットがONEへ移籍した詳細は明らかになってないが、Superflyを開催するHBOより報酬、掲示された条件が良かった可能性は高く、Superfly4でシーサケットを招聘するうえでONEとの契約が気になるところである。

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シーサケットが離脱し興行的に苦戦したSuperfly3

photo by:boxingscene

 Superfly3メインイベントはシーサケットの次点の主役となるエストラーダが務め、対戦相手には米国では殆ど無名のフェリペ・オルクタ(メキシコ)がセットされた。しかし、主役のシーサケットは不在、2019年春に実現するSuperfly4へ繋げるイベントとはいえファンからSuperflyシリーズ存続を疑問視する声も少なくなかった。

 実際、米リング誌はメインにセットされたエストラーダ対オルクタ戦をSuperflyのマッチメークに相応しいか疑問を呈していた。

 アンダーカード枠にWBO世界Sフライ級王座決定戦ドニー・ニエテス(フィリピン)対アリソン・パリクテ(フィリピン)、井岡一翔対マックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)が組まれた。井岡対アローヨはフレッシュなカードであるが、全体的に開幕イベントから高水準のカードを提供してきたSuperflyのイベントとしてマッチメークの水準が低下していると言わざるを得ない。

 これまで、Superflyのイベントでは、開幕イベントで井上尚弥が米国へ初上陸、シーサケット対ゴンサレスの因縁の再戦が組まれ多くの話題を集めた。Superfly2では、シーサケット対エストラーダがセットされ、ファンに階級屈指の選手同士のベストのマッチアップを提供してきた。しかし、Superfly3のメインに抜擢されたエストラーダの対戦相手には米国ではほとんど無名のオルクタ戦がセットアップされ、Superflyのコンセプトであるトップ同士の戦いから外れてしまった感はある。オルクタは41戦36勝30KO5敗(1KO)の戦績を誇るが、Sフライ級トップと言えるだろうか。

 キャリアで唯一の実力者との対戦が元WBO世界Sフライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦で2度ナルバエスのもつWBO王座へ挑戦するも何れも判定負けを喫し、実績ある勝利は2012年9月に戦った元WBO世界フライ級王者フリオ・セサール・ミランダ(メキシコ)戦のみでワールド・クラスとの経験は乏しい。

 もちろん、実績ベースでオルクタを評価することは難しいが、クアドラスを下しシーサケットと互角の勝負を繰り広げたエストラーダがSフライ級トップ戦線を決めるSuperflyのメインの舞台で戦う相手として、オルクタは役不足感は否めない。実際、ファンから落胆する声があがり、アンダーカードにセットされた井岡対アローヨのフレッシュなカードに注目が集まっていた。

 興行的には、同日米ニューヨークでガルシア対ポーター戦が開催され大きな影響を受けたとはいえ、Superfly3はSuperflyイベント史上過去最低の記録を更新している。集まった観衆は4,019人、HBOで中継された視聴件数はピーク41万件と厳しい結果におわっている。トリプルヘッダーの報酬は約32万ドルと前回よりもさらにイベント規模は縮小、低予算で行われる「ボクシング・アフターダー」シリーズであるが、これまで高いレベルのマッチアップを実現してきたHBOのイベントとしてクォリティが低下してしまったと言わざるを得ない。

予算を大幅に削減したHBOはSuperfly4を開催するのか

photo by:boxingscene

 今後は、シーサケットがアイラン・ディアス(メキシコ)に勝利すればWBCの指名戦が課せられることになる。ただ、その戦いがローフラー氏の思惑どおり来春2019年春に開催予定のSuperfly4の舞台かどうかは分からない。Superfly4開催にあたり、とりわけ懸念されるのがHBOの予算縮小の影響だ。

 AT&T傘下となったHBOスポーツの予算は現段階で決まってないが、米メディアによると全体的に増える見通しだと報じているが、ボクシング中継の予算が増えるかはわかっていない。ただ、決定権はAT&Tにあり好調とは言えない米国のボクシング中継に投資してゆくか先行きは不透明である。

 ついに、ESPNの親会社であるウォルト・ディズニーは2019年独自の動画配信サービスを開始する。全世界に1億人のユーザを抱えるライバルのNetflixは、2018年80億ドルをオリジナル・コンテンツ制作に投資すると公言し存在感を強めている。今後、HBOがボクシング中継の予算を限定、或るはボクシング中継から手を引き、オリジナル・コンテンツに注力する可能性は高い。
 
 Amazonプライムや、NetflixやESPN+ストリーミング配信が主流となり、オンラインの配信市場は急成長を遂げている。米国では、家庭で一般的に普及しているケーブルテレビとの契約を打ち切る”コードカッター”が増殖中、マーケットは縮小傾向にあるとさえ言われている。eMakerterの調査によると、2017年末にケーブルTVを解約したコードカッターは2490万人、前年比で43.6%増している。

 この背景には、Netflix、Hulu、Amazonプライムが大きく進出したことが理由の1つだろう。米国ではケーブルTVは10ドルから100ドル近くコストがかかる。それと比較すれば、Netflixであれば数十ドルでコストも安く済むし、直ぐに解約もできる。Netflix、Amazonプライムを見たい月毎に乗り換えることもできることも”コードカッター”ケーブルTV離れが加速している理由だろう。
 
 たとえ、HBOスポーツがボクシング中継を継続しても限定的になる可能性は高い。HBOは、全世界でもっとも商品価値の高いメキシカン・アイドルのカネロ、北米で知名度を上げ5年契約したゴロフキンとの契約を満了し放出した。AT&Tの予算の都合がつけば再契約する可能性は残るが、ライバル局達は巨額の資金を投じ、HBOが新たに基盤を構築するには相当な資金が必要になる。3000万ドル、2500万ドルと予算を削減してきたHBOが再び巨額の投資をするだろうか。

 米国におけるボクシング中継は急速に変化し競争力は以前よりも増している。ヘイモンが指揮するライバル局のSHOWTIMEの予算は6000万ドル、FOXと合わせると1億2000万ドル、パフォームと大型契約したDAZNのマッチルームの予算は1億2500万ドル、この金額はかつて黄金期だったHBOの年間予算、8000万ドルから1億2000万ドルに匹敵する金額である。

 HBO重鎮のピーター・ネルソン氏はSuperflyシリーズ4開催に向け意欲を示していることから、完全にボクシングから撤退するのではなく、限られた予算内で継続していく可能性はあるが、全てはAT&T傘下の決定次第である。だが、ライバル局達の予算は大幅に増えかつてないほど競争力は増し、有力選手を手放したHBOが再建するには莫大な資金が必要。こうした中で、AT&Tがゴーサインを出すだろうか。

 世界的にもボクシングのブランド力の強いHBOは、ファンからも愛されていることは事実であるが、ボクシングだけが主力コンテンツだけでなく、数々のエミー賞も受賞している。ボクシングのビッグマッチ前に配信される24/7などを見て分かる通りコンテンツ制作の品質は高く、今後AT&Tがライバル局のNetflixに対抗するため資金を投入する可能性は極めて高い。新しい時代が近づいているのかもしれない。

(Via:The Ring)

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