2018年9月8日米カリフォルニア州イングルウッドにあるフォーラムで行われる軽量級の祭典Superfly3は今回で3回目で迎える。ボクシングの本場、米国で大きな話題となるのは中量級以降が中心だ。なぜ、これだけ軽量級のイベントが開催されることになったのだろうか。


 Sフライ級は歴史は浅いが数多くの名王者が誕生している階級である。1979年、WBC(世界ボクシング評議会)がSフライ級(115ポンド)を新設。17階級ある中で軽量級にあたるSフライ級は日本でも馴染み深く、最近では井上尚弥がWBO王座として君臨。世界的にはジョニー・タピア(米)、ヒルベルト・ローマン(メキシコ)、カオサイ・ギャラクシー(タイ)、ビック・ダルチニャン(豪)と名チャンピオンが誕生している。

 これまで、米プレミア・ケーブルTV局HBOが、軽量級にスポット・ライトを当てることは少なかった。しかし、北米のリングで軽量級の試合が行われてこなかったわけではない。ただ、軽量級に限った話ではないが、米本土で話題を集めなければビッグマッチのメインイベントに起用されることは難しかったことは間違いない。

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90年台Sフライ級で活躍したジョニー・タピア

 90年台、米本土でSフライ級で活躍したジョニー・タピア、00年に軽量級界をリードし後に5階級制覇を達成したフィリピーノ・スター、ノニト・ドネアらはベガスの大舞台でメインイベントを努めている。タピアが軽量級でありながら、ここまでの舞台に立てのはメキシコにルーツがあり、強烈なバック・グラウンドがあったからだろう。

 壮絶な半生を過ごしこの世を去ってしまったジョニー・タピアは、Sフライ級で歴史に残る名王者である。WBOを通算13度防衛、IBF王座を2度防衛に成功、その後、バンタム、フェザー級の3階級制覇を達成している。

 メキシコ系アメリカ人を両親にもつタピアの人生はまさに波乱万丈、幼少期に両親を殺されるというショッキングな過去を背負っている。タピアを妊娠中に父親が銃殺、タピアが8歳の時に母親が誘拐されレイプされ刺殺。その後、タピアは祖母に育てられ、最終的にボクサー誰もが夢見るラスベガスの大舞台でメーンを務めるまで登りつめたが、その後、ドラッグやアルコール問題が絶えず45歳の若さでなくなってしまった。

 HBOのメインイベンターを幾度も努め、誰もが憧れる米ラスベガスの代表的なアリーナMGMグランドガーデン・アリーナ、MGM系列のアリーナの大舞台に登場、97年ベガスにあるトーマスマック&センターで行われたIBF世界Sフライ級王者ダニー・ロメロ(メキシコ)とのWBO、IBF統一戦では、7,954人の大観衆を集めた。実際、ベガスでこれだけの観客を集めることは並大抵のことではない。

Superflyの原点となったイベント

photo by:boxingscene


 Superflyのモデルとなったのは2012年11月米ロサンゼルスにある今はなきロサンゼルス・メモリアル・スポーツ・アリーナで開催された軽量級のダブル・ヘッダーではないだろうか。軽量級としては好ライン・アップとなったが、HBOやShowtimeが中継することはなくスポット・ライトが当たることはなかった。

 階級こそSフライ級ではないがメインには、WBO世界フライ級王者ブライアン・ビロリア(米)対WBA世界フライ級王者エルナン・マルケス(メキシコ)の王座統一戦、セミ・ファイナルには後に軽量級界をリードする2人、WBA世界ライトフライ級王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)対ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)戦がセットされた。

  しかし、2人ともまだ北米のキャリアは浅く今でこそ米メディアに取り上げられるが、北米では殆ど無名だった。ゴンサレスは、当時はまだライトフライ級で北米ではMGMのボール・ルームで行われたWBC世界Sバンタム級王者西岡利晃対ラファエル・マルケス(メキシコ)のアンダーカードや、ゴンサレスをプロモートする帝拳プロモーションズと関係を強化しているトップランクのイベントに登場し、キャリアを構築途中だった。

 当時、ハワイアン・パンチで知られ名匠フレディ・ローチ氏が教える王者ブライアン・ビロリアは、ジョバンニ・セグラ(メキシコ)、フリオ・セサール・ミランド(メキシコ)を下し絶頂期だった。しかし、米本土では実力だけでなく商品価値がものを言う。軽量級にスポット・ライトが当たることは少ない。

 後に軽量級界をリードしていく中南米出身のゴンサレス、エストラーダがダブルヘッダーとして組まれたが、大きな話題を集めることはなかった。熱心なボクシング・ファンなら好ライン・アップだったと記憶しているだろう。最終的にウェルスTVが中継し、メインイベントのビロリア対マルケス戦は年間最高試合の候補にあがる激戦となったが、興行的には苦戦を強いられている。

 しかし、これが当時の北米における軽量級の現実だった。米メディアによると集まった観衆は約3,500人と厳しい結果におわっている。実際、日本のメディアではベガスなど大舞台が取り上げられるが、軽量級の拠点は間違いなく日本なのである。

「誰もみたことがなかった素晴らしいショーだったよ。HBO、Showtimeに代診したけど中継は叶わなかったよ」

 当時、ビロリアのマネージャーを務めたゲーリー・ギトルソン氏は落胆の色を隠せない。

 一方、HBOは米ニュージャージー州アトランティック・シティにあるボードウォーク・ホールに登場するエイドリアン・ブローナー(米)の2階級制覇がかかる試合を中継することを決定していた。

 
 プロ・ボクシングはビジネス、優遇されるのは実力者でなく商品価値だ。当時のブローナーはメイウェザー2世とも言われスター候補、アントニオ・デマルコ戦はWBC世界ライト級の王座もかかっていた。どちらにスポットライトが当たるかそれは明白だった。

HBOが軽量級にフォーカスした理由

 今後、数年で米国内のボクシング中継が大きく様変わりしても不思議ではない。HBOが軽量級にフォーカスしたのは、複数の要因が考えられる。1つは、HBOの予算が削減されているのが理由だろう。かつて1億ドルを投資したネットワーク界の巨人HBOの勢力は確実に落ちている。緊縮財政が進み最新のデータで年間予算は、2500万ドルまで落ち込んでいると言われている。

 実際、100万ドル以上の資金を投入する「ワールドチャンピオンシップボクシング」は激減。大型イベントは(PPV)ペイ・パー・ビュー頼み、HBOを取り巻く情勢も急速なスピードで変化し厳しい情勢が続ている。HBOは依然として米国でブランド力は強い。ただ、新たなプラットフォームも登場し、長らくHBO、ShowtimeといったケーブルTV局がけん引してきたが米国のボクシング中継は大きな転換期を迎えている。

 長きに渡り同盟関係を築いてきたトップランクがHBO離脱を決定、ESPN(米スポーツ専門チャンネル)と4年契約を締結。最近、大幅に契約内容を更新し契約期間を7年に拡張、米国内で次々とイベントを開催し勢力を強めている。

 一方、兼ねてから米国のマーケットに進出を計画していた英国ボクシング界の重要人物エディ・ハーン氏が、パフォーム・グループと超大型契約を締結。DAZNが米国でボクシング中継に新たに参入することを表明し、10月米国で初イベントを迎えHBOの存在感は薄まっている。

 トップランクはクロフォード、ロマチェンコ、バルデスといったスター候補ら多くを傘下に収めていたが、トップランクは全てHBOに依存していた。実際、HBOが承認しなければイベントを開催することはできない。いつまでたってもイベントが開催できないことに対しトップランクのボブ・アラム氏は痺れを切らしていた。

 2つ目は、軽量級は中量級と比較するとコストがかからないといった利点がある。報酬が安くすみそれでいて、軽量級のファイターはファンを満足させる好ファイトを披露してくれる。HBOが軽量級に方針を転換したのは財政的な理由、軽量級であれば低予算で済むからである。

 前述したエイドリアン・ブローナーや、中量級で活躍するマイキー・ガルシア(米)、キース・サーマンは100万ドル以上の報酬が必要。HBOは、100万ドルプレイヤーに成長したクロフォード、ロマチェンコを結果的に手放したが、もはや資金を投入する体力がなくそうせざるを得ない状況だったのだろう。

これからSuperflyのブランド力を維持できるだろうか

photo by:boxingscene

 2017年9月軽量級の祭典Superflyは大成功を収めた。集まった観衆は7,418人、HBOと契約したローマン・ゴンサレスが米本土で軽量級の扉を開いたといっても過言ではない。ただ、ゴンサレスがシーサケットに完敗しメイン・ストリームから外れSuperflyシリーズの興行規模は縮小されている感は否めない。今後、HBOがブランド力を維持できるか課題は多い。

 もちろん、縮小されたのは軽量級ドリーム・ファイト、ゴンサレス対井上戦が消滅し、Superflyに対しての期待感が薄れたことが大きく影響を及ぼしたことに違いはないが、イベント全体に必要な資金は減少傾向にある。2017年Superflyは、シーサケットが17万ドル、ゴンサレスが60万ドル、井上が20万ドル(この金額にさらに国内での放映権などが加算されておよそ4000万円)で興行全体で100万ドルを超えていた。

 しかし、2018年2月に行われたSuperfly2では、シーサケットが25万ドル、エストラーダが10万ドル、全体で60万ドル程度と開幕イベントより減少。Superfly3では看板選手のシーサケットが不在、エストラーダ、井岡、アローヨ、ニエテスがメインになりSuperfly2よりもさらに低予算で済む興行となるだろう。

 順当にいけば、2019年春にもSuperfly4が開催されおそらくメインにシーサケット対エストラーダの再戦がセットされることになる。しかし、シーサケットはOneのイベントに参戦を決定しSuperflyに参戦する保証はどこにもない。さらにエストラーダも報酬に不満を示したこともあり、HBOが選手に対し満足のいく報酬を支払えるかどうか不安が残る。

 ファンからSuperflyシリーズ存続に異論を唱える声もすくなくない。Superflyシリーズを存続させるにはファンを飽きさせない、魅力的なマッチアップが求められる。イベントのリード・プロモーターは、クリチコ兄弟とK2プロモーションズを立ち上げ、これまでゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)を中心にプロモートしHBOと結びつきの強いトム・ローフラー氏が主宰する。

 「ハリウッド・ファイト・ナイト」シリーズを立ち上げ、プロモーター業に本格参入。360プロモーションズを新設し”Superfly3″は初の大型イベント、Superfly4の期待感が高まるイベントとして成功させることができるか。課せられるハードルは高い。

 新会社を設立したのは、ゲンナディ・ゴロフキンがキャリア後期に入ったことも理由の1つだと考えられる。ゴロフキンはようやく米本土で認知されてきたが36歳、残された時間は限られている。今後は、米ロサンゼルスで新人発掘とともに選手をプロモート契約していく方針だろう。

 メジャー4団体となり統括団体の腐敗も進み世界王者の権威は低下している。いまや世界王者は単なる肩描きにすぎない。求められるのはただの世界タイトルマッチではなく王者同士が潰し合う文字通りSフライ級最強をかけた頂上決戦である。今後、どういった形でパズルのピースが埋められていくのか。ローフラー氏の手腕の見せ所となりそうだ。

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