ミドル級最前線は近年にない急激な動きを見せ、ジェット・コースターのように好カードが続々と決まっている。ゴロフキン対カネロの因縁の再戦も決まり、これまで不透明だったミドル級の先行きも少しずつクリアーになりそうだ。IBF(国際ボクシング連盟)が空位の王座決定戦として命じていたダニエル・ジェイコブス(米)と、セルゲイ・デレイビャンチェンコ(ウクライナ)の交渉が興行権の入札前に大筋合意した。

 米メディアから合意が報じられたが、IBFは日程、会場の通達がないことから興行権の入札を示唆していたが、今週にも日程、会場が公式アナウンスされることがわかり入札は中止となった。

 2018年10月〜11月米ニューヨーク、マディソンスクウェア・ガーデン(MSG)、バークレイズ・センター、開催で最終調整が行われていたが、決戦地はHBOの日程から現地時間11月10日、米ニューヨーク州ユニオンデールにあるナッソー・コロシアムに落ち着く可能性が高い。

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 当初、複数の要因があり交渉難航が予想され、ダニエル・ジェイコブスが辞退する見方もあった。ジェイコブスは、長年に渡り信頼関係を築いてきたアンドレ・ロジエール氏がトレーナーを努めている。実は、デレイビャンチェンコのトレーナーを務めるのもアンドレ・ロジエール氏なのである。

 「戦いが決まれば、ダニエル・ジェイコブスのコーナーにつくよ。ダニーとは14歳の頃から一緒だったし、彼は息子のような存在なんだ。誰と戦うことになろうと、ダニーと常に一緒だよ。セルゲイは甥のような存在だよ、お互いが戦うのを見たくないだけなんだ。でも、残念なことだけど、この戦いは実現しなければいけない」

 交渉が具体化し両雄のトレーナーを務めるアンドレ・ロジエール氏は、教え子同士の戦いに難色を示していた。デレイビャンチェンコは、アマチュアで好成績を残し、ニューヨークを拠点にプロモーターとして活動するディベラ・エンターテイメントを主宰するルー・ディベラと契約を果たしている。

 アマチュアでは、マット・コロボフ(ロシア)、バフチヤル・アルタエフ(カザフスタン)と拳をまじえ、プロ入しカーティス・スティーブンソン(米)、イエフゲン・フィトロフ(ウクライナ)らとスパーリング経験を持つ。もちろん、同門のダニエル・ジェイコブスともスパーリングで拳を交えている。

 2001年、2002年ヨーロッパ選手権で金メダルを獲得し、2007年世界選手権で銅メダルを獲得。2008年北京五輪ウクライナ代表を努め、最終的にエミリオ・コレア(キューバ)に負けメダルを逃してしまったが、2014年プロ入りしルー・ディベラ氏と契約し、ディベラ氏と協調関係にある大物アドバイザー、アル・ヘイモン氏と契約を結んでいる。

TV局の問題

 トレーナーの問題はすぐには解消したが、TV局の問題が残っていた。ジェイコブスは、米プレミア・ケーブルTV局HBOと複数戦契約を締結。次戦はHBOとの契約最後の試合だった。一方、デレイビャンチェンコをプロモートするディベラ氏は、Showtime(米・ケーブルTV局)と協調関係にあり、HBO、Showtimeはライバル局同士、ここで対立構造が生まれる。

 実際、ディベラ氏とジェイコブスをプロモートするエディ・ハーン氏は交渉締結に向け対話を続けていたが、ディベラ氏はIBFへ興行権の入札を行うよう要請。交渉は難航していた。

 「HBOピーターネルソンは、ディベラに応える必要はない。ダニーの次戦はHBOになる。彼らが十分な資金を容易できるかどうか。契約が破断となればデレイビャンチェンコは、次点となる挑戦者となるデメトリアス・アンドレードと戦うことになるだろう」

 ジェイコブスをプロモートするハーン氏は、交渉条件によっては出場も辞さない構えだった。ジェイコブスはHBOと契約している関係上、デレイビャンチェンコ戦を締結するうえでHBOで成立することが前提条件。それだけに、知名度が低いデレイビャンチェンコ戦を資金繰りが厳しいHBOが放映権を捻出し承認するか不透明だった。

 HBOの資金不足は深刻化している。HBOが年間投資するボクシング中継枠の予算は年々減額。HBOと長いあいだ同盟関係を築いてきたトップランク(米・大手ボクシングプロモーター)はHBOを離脱。新たにESPN(米・スポーツ専門チャンネル)と4年間の契約を締結している。

 トップランクは、傘下に収めるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、テレンス・クロフォード(米)ら看板選手の防衛戦を行うにしても事実上HBOの放映権なくしてイベント開催は困難。トップランクは自前のインフラ網を使ったPPV(ペイ・パー・ビュー)イベントを開催したこともあり、トップランク社ボブ・アラム氏は苦言を呈していた。

久しぶりにビッグイベントに投資したHBO

 米メディアによれば、ジェイコブス対デレイビャンチェンコ戦に必要な資金は約300万ドル(約3億3500万円)という試算をしていた。最終的には、HBOが250万ドルの資金を用意し両陣営は合意した。HBOがここまで高額な資金を投資した理由はなんだろうか。

 交渉難航が予想されていたが、まとまる可能性は少なからずあった。デレイビャンチェンコはジェイコブスと契約するHBOと対立構図であることに違いないが、デレイビャンチェンコはShowtimeのメイン・キャストではなく、互いが看板選手で交渉が難航したゴロフキン対ジェイコブスの構図とは異なる。

 実際、これまでにも似たようなケースがあった。トップランク傘下のクロフォードと、ディベラ氏が抱えアル・ヘイモン氏とマネージメント契約するフェリックス・ディアス(ドミニカ共和国)戦は、ディベラ陣営がHBOで中継することで合意している。条件面で同意すればデレイビャンチェンコがHBOに出場することは十分可能だった。

 ただ、興行権の入札にはESPN(米・スポーツ専門チャンネル)と契約したトップランクが強い関心を示しており、入札になれば面倒なことになる。トップランクはディベラ陣営に対し財政的な支援をする方針を示していた。

 ESPNは、ESPN+をローンチしボクシング中継に大型投資をはじめ勢力を拡大し続けている。ESPNとタッグを組み勢力を増したトップランクは、ESPN+のストリーミング中継枠確保に動いている。2018年5月5日ゴロフキン対マーティロスヤン戦でHBOが放映権捻出に躊躇している中、トップランクがオファーをだしたという話しもあるほどである。

 当然、入札になれば資金繰りが厳しいHBOは不利になる。IBFへ入札延期を求めたのも、エディ・ハーン氏、HBO陣営はそうそうに交渉をまとめ興行権の入札を回避したかったのだろう。

 米メディアによれば、HBOはAT&T傘下となり全体の予算は増える方針だという。しかし、HBOはボクシングだけでなく他のコンテンツもあり、ボクシング中継の予算が増えるかは不透明。今回のような大型投資を継続するかはわかっていない。

 ただ、今まで低予算のイベントを開催してきたHBOが久しぶりに大型投資した案件であることに変わりはなく、AT&T傘下になったHBOが今後どういった方向性を示すのかも注目したい。

ジェイコブスはミドル級要の選手としての存在感を示せるか

 ジェイコブスは、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)、村田諒太(帝拳)、ジャーモール・チャーロ(米)らミドル級の要の選手であるが、直近の試合は苦戦を強いられている。

 アリアス、スレツキに勝ちはしたがパフォーマンスは良かったとは言い難い。プロ戦績ではデレイビャンチェンコを凌ぐジェイコブスだが、不安要素は多い。デレイビャンチェンコ戦は今のジェイコブスにとって決して楽な相手ではないだろう。

 いつもなら、試合当日は3階級上のクルーザー級まで体重を膨れ上がらせ、フィジカルの優位性を活かすが、今回はこの手は使えない。IBFのタイトルマッチは、当日計量が設けられ規定で10ポンド以上の増量は許されない。

 ジェイコブスのゴールはIBF王座獲得だけでなく、ゴロフキンやカネロとのビッグマッチを実現することであることは間違いない。しかし、ミドル級をと取り巻く情勢は変化している。極東に大きなマーケットをもつ村田諒太(帝拳)、WBC暫定王座チャーロ(米)、強豪達がゴロフキン、カネロらに照準を合わせている。ジェイコブスであっても交渉のテーブルで優位に立つことは容易ではないだろう。

 9月15日ゴロフキン対カネロⅡ因縁の再戦が終われば、今まで先行きの予想が難しかったミドル級トップ戦線の行方も今よりもクリアーになるはずである。ゴロフキン対カネロの勝敗によっては今後のマッチアップは大きく変化する可能性もある。激戦区なだけにジェイコブスが次の大きなステップに進むには、ビッグマッチの期待感が高まる勝ち方が求められる。

(Via:boxingscene)

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