一進一退の交渉が続き一時は交渉破断の危機さえあったがゴロフキン対カネロの因縁の再戦がようやく正式決定。ミドル級トップ戦線のウェイティング・サークルに入る、ダニエル・ジェイコブスの今後の行方が気になるところである。現在、空位のIBF王座決定戦の交渉が進められているが雲行きは怪しい。ミドル級の要の1人、ジェイコブスのオプションを探ってみる。

 6月11日、IBF(国際ボクシング連盟)はゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)が王座剥奪となったIBFミドル級王座決定戦として、ランキング1位セルゲイ・デレイビャンチェンコ(ロシア)、2位ダニエル・ジェイコブス(米)の両陣営に対し王座決定戦を行うよう通達。しかし、両陣営の交渉の進捗は思わしくない。

 デレイビャンチェンコをプロモートするディベラ・エンター・テイメントを主宰するルー・ディベラ氏は、ジェイコブスを抱えるエディ・ハーン氏と交渉締結に向け対話を続けたが、IBFへ興行権の入札を行うよう要請した。IBFは、7月5日米ニュージャージー州スプリングフィールドにあるIBF本部で興行権の入札を行うことを発表。期限までに交渉がまとまらない場合、興行権は入札によって決められることになっている。

 「彼らからオファーはなかったけど、私は交渉締結を望んでいた。報酬が正しければHBOで戦うことは問題なかった。しかし、彼らはHBOからはなれることはできない」

 交渉に従事したディベラ氏はこう語っている。実際、合意に向け課題は多い。まず、年々予算減が続くHBOの体力的な問題に加え、両陣営はアンドレ・ロジエール氏がトレーナーを努めトレーナーの問題を抱えている。

 デレイビャンチェンコ陣営はトレーナーの問題はないと話しているが、米メディアはロジエール氏は、合意した場合ジェイコブス陣営のトレーナーに着く見方をしている。そうなった場合、デレイビャンチェンコ陣営は新たなトレーナー探しを余儀なくされる。

 ジェイコブスはHBOと複数戦契約を締結。次の試合がHBOとの契約最後の試合となる。悪い言い方をすればジェイコブスは、HBOに拘束されている身である。次戦の日程など全てはHBO次第。HBOは2017年に続きボクシング中継の予算は目に見える形で激減している。それだけに、次戦がいつ行われるか分からないがのが現状である。

ジェイコブス、IBFの王座決定戦は出場辞退の可能性も

 「HBOピーター・ネルソンは、ディベラに応える必要はない。ダニーの次戦はHBOになる。彼らが十分な資金を用意できるかどうか。契約が破断となればデレイビャンチェンコは次点の挑戦者となるデメトリアス・アンドレードと戦うことになるだろう」

 ジェイコブスをプロモートするエディ・ハーン氏が言うとおりIBF王座決定戦出場を辞退する可能性は十分ある。入札になればトップランクと複数年契約を果たしたESPNが入札に乗り出すことも考えられる。ESPNは、新たに有料ストリーミング配信サービスESPN+をローンチし勢力を増している。

 しかし、ジェイコブスはHBOと独占契約している関係上、基本的にESPNやShowtimeなど他局のイベントに出場することはできない。デレイビャンチェンコは米国では殆ど無名、視聴件数、興行成績といった面では期待できない。こうした状況の中、資金繰りの厳しいHBOが承認するかどうか。入札前に辞退し視聴件数が望めるマッチアップを模索することも考えられる。

 ジェイコブスが辞退した場合、次点はデメトリアス・アンドレード(米)となるが、アンドレードは7月21日米ラスベガスでHBOが中継するイベントで、ヤマグチ・ファルカン(ブラジル)と試合を行うことが内定。IBFが、アンドレードに王座決定戦の出場オファーを出すかは不透明である。

 もともと、ジェイコブスがHBOと契約した背景には、有力プロモーターのトップランク(米大手ボクシング・プロモーター)がHBOを離脱した事でHBOの予算枠に空きができたこともあるが、HBOはゴロフキン対カネロ再戦の勝者とジェイコブスをぶつけるシナリオを描いていたことは間違いない。

 ジェイコブスは、米本土で強い影響力をもつアル・ヘイモンと契約。HBO、Showtimeはライバル局同士であることから交渉難航が予想されていたWBA(世界ボクシング協会)が指令したスーパー王者ゴロフキンとの指名戦を2017年3月米ニューヨークの殿堂”メッカ”MSGアリーナで交渉を締結。

 その後、ジェイコブスはヘイモンを離れHBOと電撃契約を果たすことになったのである。もっとも、ジェイコブスが影響力の強いヘイモンを離脱したのには理由がある。ジェイコブスがゴロフキンやカネロと戦うにはTV局の弊害がでてくる。ヘイモンはShowtimeと協調関係にあり、ゴロフキンやカネロはShowtimeと相反するHBOと独占契約を結んでいる。つまり、ジェイコブスが望むビッグマッチは、ヘイモンと手を切らなければ実現は限りなく難しいという事情があった。

 おそらく、ジェイコブスと契約したHBOは、復帰戦、チューンアップ戦を挟み9月にゴロフキン対カネロの勝者とジェイコブスをPPV(ペイ・パー・ビュー)ファイトのシナリオを考えていただろう。しかし、当初、5月に予定されていたゴロフキン対カネロの再戦が、カネロのドーピング違反により9月に延期されたことでHBOの目論見は外れしまうことになる。

ジェイコブスのマップアップは

photo by:boxingscene

 実はジェイコブスは、IBFのタイトル以外にもWBO(世界ボクシング機構)1位にランクされタイトルへの挑戦ができるポジションに居る。現王者ビリー・ジョー・サンダース(英)は、怪我を理由にマーティン・マレー(英)との防衛戦が中止。WBO次第では暫定王座決定戦、或いはサンダースへの挑戦の可能性もでてくる。

 サンダースの防衛戦は2017年12月が最後、このまま防衛戦を行わないと王座は危うい状況にある。サンダースは怪我を理由にマレー戦が中止になったが、WBOから公式アナウンスはない。ソーシャルメディアのファンのあいだでは「サンダースは怪我をしていないのでは?」という憶測も飛び交っていた。ゴロフキンのプロモーターを務めるローフラー氏がカネロとの再戦が決裂した場合のプランBとして、サンダース戦が合意していたことを明かしていたが真相は定かではない。

 ただ、サンダースのメディカル問題もあるが、WBOの規定により王者は怪我など例外を除き9ヶ月の間に1度は防衛戦を挟むことが義務付けられ、正当な理由がない限り王座を剥奪される可能性がある。サンダースは、2017年12月デイビッド・レミュー(カナダ)との防衛戦が最後。サンダースの怪我がWBOに認められない場合、防衛戦をしない限り王座は剥奪される公算は高い。実際、過去にWBO王座を保持していたギレルモ・リゴンドー(キューバ)が防衛戦を行わず、WBOから王座を剥奪されている。

 サンダース戦が具体化すれば、HBOも承認する可能性はある。しかし、WBOが暫定王座決定戦を措置した場合、ジェイコブスは米国では殆ど無名の同級2位ウォルター・カウトンドクワ(ナミビア)と王座を争うことにり、興行は苦戦を強いられ選択肢は限られてくる。

 もちろん、HBOの予算都合がつけばIBF王座決定戦の可能性もあるが、現段階では不透明感が強い。財政的に厳しいHBOは、AT&T傘下になり米国メディアによれば予算は増える見通しだという。

 しかし、HBOのコンテンツはボクシング中継だけではない。今後の方針次第でHBOボクシングのプライオリティは下げられる可能性がある。HBOのブランド力は依然として強いが、かつて80年代黄金期を築いた巨人HBOの勢力は確実に落ちていると言わざるを得ない。

 トップランクが離れ最近では友好関係にあるGBP、メインイベンツ、K2プロモーションの実質指揮をとるローフラー氏、米本土上陸したマッチルーム・ボクシングを顧客に抱えている。2015年の予算は3000万ドル、2016年は2500万ドルまで予算は削減されている。

 はっきりいってHBOを取り巻く情勢は厳しい。実際、GBP、メインイベンツは米本土の有力プロモーターに違いはないが看板選手は少ない。 カネロ、ゴロフキン、コバレフ、マティセ、リナレス、ビボルといった選手がメーンキャストである。

 軽量級イベントSuperfly、低予算で済むカードを組み、ビッグマッチは資金を用意する必要がないPPV(ペイ・パー・ビュー)頼みというのが実情。財政的な問題に繋がることだが、イベントのメーンを努め集客力がある選手が枯渇、重要な課題は多い。何れにせよ100万ドル以上の資金を投入しデレイビャンチェンコ戦を締結させるのか。或いはサンダース、WBC暫定王者ジャーモール・チャーロとのサプライズ・マッチか。その答えは近いうちにでるだろう。

(Via:The Ring)

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