ゴロフキン対カネロの因縁再戦が1年ぶりにメキシコの独立記念日の週末に挙行されることが正式に決定。交渉の勝者はゴロフキンだった。カネロをプロモートするゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)は、タフなネゴシエーションを強いられた。

 エスカレートする駆け引き、交渉は一進一退の状態が続き長期化。緊張状態が続きいつ破断になっても不思議ではない状態だった。強硬姿勢を貫くゴロフキンに対しGBPは、55.5-45.5の最終オファーを掲示した。ところが、ゴロフキンはこのオファーに応じることはなく、GBPは間違いなく瀕死の状態に陥っていた。

 デッドラインの現地時間6月14日正午、「ゴロフキンとの再戦は実現しない」。GBPの舵をとるオスカー・デラ・ホーヤ氏はESPNへ伝えた。交渉が破断になったことでツイッターなどではファンから驚きの声が上がっていた。

 何としてもゴロフキンとの再戦交渉を締結させたいオスカー・デラ・ホーヤ氏は落胆の色を隠せない。しかし、実は交渉は引き続き行われていた。GBPマッチメーカーを務めるエリック・ゴメス氏は、交渉関係者のあいだで議論していた最終カードをゴロフキンへ掲示した。

 ロシアで開催されているサッカーのワールド・カップにスポンサーとして参加しているゴロフキンを抱えるトム・ローフラー氏は、デッドラインを過ぎた20分後、ESPN宛にテキスト・メッセージを送信。「本当に嬉しいよ。みんなに、9月15日ゴロフキン対カネロの再戦を発表することができて嬉しく思っている」。デラ・ホーヤ氏も安堵。急転直下、試合が決まり長い交渉はようやく終わりを迎えた。

ゴロフキン対カネロ再戦の主導権はゴロフキンが握っていた

photo by:boxingscene

 再戦交渉は関係者のあいだで難航することが予想され、大金が動くが交渉締結に至らないといって見解もすくなくなかった。カネロのドーピング違反で2018年5月の再戦が急遽中止。規定路線だったとはいえ、これまで友好な関係を築いてきたGBP、ローフラー氏、両陣営のあいだに少なからず亀裂が生じたことは間違いない。

 実際、再戦交渉でGBP、ローフラー氏は交渉締結を望んでいたが、ゴロフキンはカネロに対し強い不信感を抱いていた。カネロがクレンブテロールの陽性反応を示した際「僕はクリーンだけど、初戦のあと彼がクリーンでないことは知っていたよ。カネロの体に注射の痕があったのもみたし、食肉汚染でないことは明らかだ」米カリフォルニア州ビッグベアレイクにあるサミット・ジムでトレーニングしていたゴロフキンは、報道陣を前に怒りを顕にしていた。

 交渉の主導権は高い商品価値を誇るカネロを抱えるGBPが握っていると思っていたファンも少なくないだろう。ところが、実際はゴロフキンが交渉の主導権を握っていた。交渉を進める中、デッドラインを設け、あたかもGBPが主導しているかのように見えたが、刻一刻と時間が過ぎ去るなかGBPが焦っていたことは明白だった。

 当初、5月の再戦時、報酬分配は65−35でまとまっていた。カネロの薬物検査の裁定がNSAC(ネバダ州アスレチック・コミッション)から決定。出場停止処分が8月にとけることが決まり、カネロのVADA(ボランティア・アンチ・ドーピング機関)による通年のランダム薬物検査に応じたことで、事実上9月メキシコの独立記念日に挙行することが決まった。

 しかし、いざ交渉が進められると、何とゴロフキン陣営は報酬分配で50−50を要求したのである。商品価値からすれば、カネロがAサイドであることは明白。ゴロフキン陣営の強気の姿勢は、関係者からも驚きの声があがっていた。

 実際、筆者もゴロフキン陣営の要求は驚きだった。カネロはドーピング違反が発覚したが、現状ボクシング界でもっとも商品価値が高く、稼げるボクサーと言っても過言ではない。どちらがAサイド(興行のリード役)であるかは言うまでもない。カネロは、米本土で影響力の大きいヒスパニック市場で多くの支持を集め、今やペイ・パー・ビュー(PPV)スター、興行における影響力は米本土で同じく活躍するゴロフキンを凌駕する。

焦るGBP

 「来年のシンコデマヨにゴロフキンがカネロと再戦を行いたければできるよ。ただ、これだけは言っておく。ゴロフキンがカネロ戦の報酬を稼ぐには5、6戦、戦う必要がある。我々はまえに進むことにするよ」。

 カネロのドーピング違反の裁定が決まり、再び交渉がスタート。GBPが掲示した報酬分配は65−35だった。オスカー・デラ・ホーヤ氏は、報酬分配を60−40に譲歩する姿勢を示すも、ゴロフキンが50−50が要求したことで、交渉の駆け引きはエスカレート。GBPはダニエル・ジェイコブス戦をちらつかせ、ゴロフキン陣営を牽制した。

 一旦は、牽制したものGBPは明らかに焦っていた。実際、9月メキシコの独立記念日に挙行する計画であれば、プロモーションも兼ねればもうデッドラインは過ぎている。その後、IBF(国際ボクシング連盟)預かりになっていたゴロフキンのIBF王座が正式に剥奪されることが決定したのである。

 いままで50−50の強硬姿勢を貫いていたゴロフキンが、55−45に譲歩し一気に情勢が変わった。ゴロフキンがIBF王座を失い報酬分配に譲歩したことで、それまで停滞していた交渉が一気に進むと思われていたが、余談を許さない状況は続いていた。
 
  「このオファーは最終的なものだ。我々は、これ以上ゲームをする気はない」。
 GBPマッチメーカーを務めるエリック・ゴメス氏は、ゴロフキンに対しデッドラインを設置。6月13日正午までにゴロフキンが同意しなければ、ダニエル・ジェイコブス(米)戦に方針を転換し、交渉締結に向け対話していく方針であることを明らかにしてた。

 ところが、ゴロフキンはGBPの最終オファーを拒否。慌てたGBPが、最後の切り札をだしようやく交渉締結に至ったのである。ゴロフキンとの再戦はGBPが強く望んでいたことは間違いないだろう。

 実際、商品価値を考えればカネロのオプションは多い。しかし、ドーピング違反でカネロの印象はすっかり変わってしまった。カネロは、初戦の薬物検査でVADA(ボランティア・アンチ・ドーピング機関)による薬物検査をクリアーしているが、ファンの中では初戦でドーピング違反を指摘する声も少なくない。

 いかなる理由であろうとドーピング違反を犯した場合、それを完全に払拭することは事実上困難である。それを、軽減し少しでも信頼を回復するためにもカネロは、ゴロフキンとの再戦は避けて通れなかったはずである。

GBPを揺さぶり最後まで信念を貫きとおし交渉に勝利したゴロフキン

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 「ゲンナディの意思は硬い。彼はカネロとの再戦を望んでいた。しかし、5月5日が中止になったことでチャンピオンとして、リスペクトを求めていた。我々はどうすることも出来なかった。この問題を解決するにはパトーナーが必要だった。それをMGMが解決してくれた。契約上、詳細は明かせないけどゲンナディは満足している」。

 ゴロフキンを抱えるローフラー氏は、ハードな交渉をようやく終えた。

 ゴロフキンが同意に至った理由は、契約条項で今となってはわからない。報酬だけでなく何かしら同意の決定的な材料があったことは間違いないだろう。壮絶な半生を過ごし、米本土に降り立ちアメリカン・ドリームを掴んだゴロフキンの本当の狙いは何だったのだろうか。

 ゴロフキンは強硬姿勢を崩さなかったが、一方で50−50から譲歩しカネロとの再戦に応じる姿勢を示していたことから、カネロとの再戦がトップ・オプションだったことは間違いない。ただ、カネロがトップ・オプションだったが、条件によっては交渉破断も辞さない構えだった。

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 ローフラー氏は、ESPNのインタビューで「デッドラインに交渉がまとまらなければ、我々はBJサンダースとの取引を成立するつもりだった。8月米カリフォルニアで戦うことを合意していた。ゲンナディはサンダース戦を挑戦と捉えていた。彼は無敗の王者だからね」。サンダース戦の強力なバックアップ・オプションがあったことを明かしている。

 米・カリフォルニア州ロサンゼルスにある番狂わせの館として知られるザ・フォーラムで挙行される計画だったという。サンダースはマレー戦が決まっていたが、怪我を理由に辞退する意向を伝えていた。プロモーターが言うことは100%真実かどうか見極めることは難しいが、日程は8月25日、米プレミアケーブルTV局HBOがPPV配信。アンダーカードで、WBO世界Sウェルター級王者ハイメ・ムンギーア(メキシコ)の初防衛戦、元4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の復帰戦が具体化していた。

最後まで正義を貫いたゴロフキン

 ボクシングは、商品価値を持つ選手が優遇される。商品価値はAサイドであるカネロであることは、ゴロフキンも承知の上だったはずである。ゴロフキンは、ドイツのプロモーターと別れを告げ、米西海岸へ上陸。米本土で防衛を重ねるも、踊らされた感は否めない。ミゲール・コット(プエルリトリコ)、カネロとの対戦は、WBC(世界ボクシング評議会)の政治的な理由で先延ばし、ビッグネームが何よりも優先されることは肌で感じていただろう。

 一連の行動からゴロフキンの戦略とも見える。しかし、ゴロフキンは「公平であるべきだ」と繰り返し主張。ドーピング違反をしたことが明らかになってもカネロの商品価値を盾に、交渉するうえで優勢に進めようとするGBPに対し強い不快感を抱いていたことは間違いない。

 しかし、理由がどうであれゴロフキンは、米本土で有力プロモーターであるGBPの圧力に屈せず最後まで対等の立場で交渉に臨み、最後にはGBPを妥協させ多額の報酬を手にすることに成功した。ゴロフキンが勝者であることに、議論の余地はない。

 PPVはたとえ数%であっても、その額は興行規模によって大きくなれば億単位で変わってくる。歴代のビッグマッチを見ても、PPVの分配率は交渉締結する上で争点となるが、最終的に商品価値が劣るほうが妥協することが殆ど、ゴロフキンは歴史的にみても類を見ない勝利である。

 最終的な報酬分配がどうなったかわからないが、GBPが掲示した57.5(カネロ)ー42.5(ゴロフキン)より好条件を手にした可能性は十分ある。ボクシング界は、政治的な理由も含め不条理なことも少なくない。ただ、今回の件で、ゴロフキンはGBPに対し公正、正義を貫きたい強い意志があったことは間違いない。

(Via:ESPN
ESPN)

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