ゴロフキン対カネロ再戦。一体どうなるのだろうか。ミドル級最前線の状況は急激な動きを見せている。IBFがミドル級帝王ゴロフキンの王座を剥奪した。

 カネロをプロモートするオスカー・デラ・ホーヤ氏はゴロフキンとの再戦交渉決裂を示唆したが、それまで強気の姿勢を緩めなかったゴロフキン陣営がIBF王座を失ったことで、報酬分配で譲歩する姿勢を示し再び両陣営が再戦へ向け対話を再開するムードが漂っている。

ゴロフキン、IBF王座を剥奪される

 「ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)がIBF王座を剥奪された」。このニュースにショックを受けたファンも少なくない。IBF(国際ボクシング連盟)は、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)の保持するIBF王座剥奪を決めた。ゴロフキンを抱えるトム・ローフラー氏が、IBFと対話を続けていたがそれもむなしく王座剥奪を免れることは出来なかった。

 カザフスタン人は、文字どおり”議論の余地がない王者”だ。IBFはもっと配慮すべきだという意見も理解できる。4団体統一を図るゴロフキン、カネロ再戦の中止に、IBF王座剥奪と窮地に立たされることになった。

 IBFの裁定に批判的な声もあるが、IBFは規定のルールを厳守しゴロフキンを最大限に配慮している。ゴロフキンはマーティロスヤン戦を挙行するにあたり、IBFへ例外申請し指名挑戦者である同級1位セルゲイ・デレイビャンチェンコ(ロシア)戦の回避を要請した。

 当初、IBFはバネス・マーティロスヤン戦を、マーティロスヤンが2年のブランクがあること。ミドル級での実績が無いことを理由にタイトルマッチとして承認しない方針を示していた。しかし、IBFは、ゴロフキン陣営の例外申請を取締役会議で条件付きでIBFのタイトルマッチとして承認する方針を決定。統一王者ゴロフキンに対し配慮した裁定を下したといっていいだろう。

 ところが、ゴロフキン陣営はIBFが掲示した条件に難色を示し、IBFが設定した期限内に同意しなかった。本来であれば、この時点でゴロフキンの王座剥奪は免れないものだった。

 もっと、フレキシブルに対応するべきだという意見もあるだろう。しかし、大金が動くからといって規定を無視し特例を許していては腐敗した統括団体と何ら変わりはなく、4団体でもっとも厳格なIBFもそのレッテルを貼られることは避けられない。

 世界王者の権威が低下しているのも、統括団体が人気選手や、自国の選手をこぞって優遇しているのが要因の1つである。何より、深刻なのは指名挑戦者が待機されるという不条理な事態を招いてしまうことである。

ゴロフキン、IBF王座剥奪の経緯

 ゴロフキンは、カネロとの再戦が消滅したが、ゴロフキンのプロモーター、トム・ローフラー氏は5月5日代役を探し代替イベントを行うこと発表。交渉テーブルにはオサリバン、ハミエ・ムンギア、マーティロスヤンの名が挙がっていた。

 しかし、IBF同級1位ゴロフキンへの指名挑戦権をもつデレイビャンチェンコをプロモートするルー・ディベラ氏は、カネロと再戦が消滅した時点で、指名挑戦者であるデレイビャンチェンコがゴロフキンへ挑戦する権利があると主張。

 もちろんディベラ氏の主張は正しい。本来であればゴロフキンへ挑戦する権利は、ゴロフキンの代役として名前が挙がったハミエ・ムンギアや、オサリバン、マーティロスヤンでもなく、IBF指名挑戦権をもつ同級1位デレイビャンチェンコである。デレイビャンチェンコは2017年8月トリアーノ・ジョンソンに勝ちIBF指名挑戦権を獲得。実際、ゴロフキンのIBFの指名戦は指名挑戦者が不在だったこともあるが、2016年4月を最後に2年以上行われていない。

 当然、4団体王座統一を図るローフラー氏はIBFの指名戦問題を解決すべく、カネロとの薬物問題の裁定が決まった後4月20日、IBFへ2万ドルを支払い例外申請を行使。解決に向けて動き出すことになるが、マーティロスヤン戦を強行したことでカネロとの再戦へ向かうにしろ、IBF王座は剥奪の危機に面していた。

 デレイビャンチェンコ陣営は、ゴロフキン陣営から例外申請が出されたことに反発しIBFへ異論をとなえた。4月27日、IBFは取締役会議を行い条件付きでゴロフキン陣営の例外申請を承認することを決定したのである。
 
 取締役会議で合意した条件は、ゴロフキンが5月5日マーティロスヤンと戦うこと。マーティロスヤン戦後、90日以内、期限となる8月3日までにデレイビャンチェンコと指名戦を行うこと。この条件を守らなかった場合IBFが負う損害を賠償すること。以上をマーティロスヤン戦前までに文章で同意することをゴロフキン陣営に求めた。
 
 一方、デレイビャンチェンコ陣営はIBFの裁定を受け「5月5日、マーティロスヤン戦後にデレイビャンチェンコと戦うことが義務付けられることが保証されれば問題ない。彼は90日以内にデレイビャンチェンコと戦わなければならない。例外はない」。と裁定に納得。同時に、デレイビャンチェンコをプロモートするディベラ氏は、マーティロスヤン戦後にカネロ戦を強行するならIBF王座を明け渡す必要があると勧告した。

 ところが4月30日、トム・ローフラー氏はIBFが定めた条件の1つ、8月3日にデレイビャンチェンコ戦に同意することに対し難色を示したのである。ローフラー氏はメジャー4団体でもっとも厳格なIBFと再び話し合いの場を設け、難題の解決に挑むことになる。

 ゴロフキン対マーティロスヤン戦は5月5日、米カリフォルニア州カーソンにあるスタブハブ・センターで予定どおり挙行された。しかし、ゴロフキン陣営はこの時点でIBFが求めていた同意書にサインをしていない。つまり、IBFが認可しないままゴロフキンは試合を強行。この時点で既に王座剥奪は決まっていた。
 
 ローフラー氏は5月22日、ゴロフキン、ゴロフキンのトレーナーを務めるアベル・サンチェス氏を率いて、IBF本部がある米ニュージャージーへ向かい、IBFのメンバー、デレイビャンチェンコのマネージャーを務めるキース・コノリー氏を交え、5時間に及ぶ長時間の会談を実施。10日以内にIBFチャンピオンシップ委員会から出ることになった。
 
 その後、IBFは、ゴロフキン陣営が特例を認めるにあたり条件に同意せず5月5日の試合に出場したことは、IBF規定ルール「5H」の規定違反にあたるとし、ゴロフキンのIBF王座を剥奪することを決定した。

 ゴロフキン陣営は例外申請を行使する権限はあるが、IBF規定「11I チャンピオンはIBFの条件に従わなければならない」にあるようにIBFの条件全て受け入れ承認を受ける必要がある。

 今回、ゴロフキン陣営は例外申請をIBFに承認することなく試合を強行。これはIBFの規定「5H. IBFが認可しない試合に出場した場合、タイトルは剥奪される」規定違反にあたる。

 ゴロフキン陣営はマーティロスヤン戦前にIBF王座を保持したければIBFの条件をすべて飲まなければならなかった。IBFの王座も欲しい、カネロとの再戦を見据えデレイビャンチェンコ戦を回避したいともとれる陣営の一連の行動、ゴロフキン陣営に落ち度がなかったとは言い難い。

ゴロフキン、デレイビャンチェンコ戦は回避不可能だった

photo by:boxingscene

 ゴロフキン陣営が、カネロとの再戦に方針を決めていたことは明らかだった。ただ、現状、マーティロスヤン戦に舵を切っ時点で、IBFの指名戦を避けるルートはゴロフキンのIBF王座は完全に剥奪の危機に直面していた。

 IBFの指名戦は、規定上WBA、WBC、WBO他団体王者との統一戦であればIBFの承認さえ得れば、指名挑戦者より優先され免責が認められる。しかし、対抗WBO王者サンダースはマーティン・マレーとの試合が決定。マーティロスヤン戦を消化したゴロフキンはIBFの指名戦は事実上逃れる術はなかった。

 ゴロフキン陣営は、カネロの薬物問題の裁定結果がでた4月17日、マーティロスヤンと防衛戦を行うことを発表。NSAC(ネバダ州アスレチック・コミッション)に出場停止処分を科せられたカネロは8月に解除される。つまり、メキシコの独立記念日に再戦が事実上挙行可能となった。陣営がカネロとの再戦に方針を決定したのは明らかである。

 そもそも、ゴロフキン陣営がカネロとの再戦を考えていなければ、マーティロスヤンを選択することはなかったはずである。9月の再戦を逃せば金になるカネロと戦う機会がまた訪れる保証はどこにもない。マーティロスヤンを選択したのは、カネロとの再戦へ向けできる限りリスクを排除したかったのだろう。

ゴロフキンの対戦候補がカネロである理由

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 実は、ゴロフキンのビッグマッチは限られている。最有力オプションは薬物違反が発覚したが、最も稼げる相手それがカネロであることは間違いない。

 現状のミドル級中心人物達で高い興行価値をもっているのは、米本土で活躍するゴロフキン、ヒスパニック層に絶大な支持があるカネロ、日本に大きなマーケットがある村田諒太(帝拳)この3人だ。

 この中でもカネロは、PPV(ペイ・パー・ヴュー)スターの地位を築き、桁違いのセールスを叩き出している。2016年9月、米テキサス州で米国では殆ど無名のリアム・スミス戦30万世帯、チャベスJr.戦100万世帯の売上を記録している。米国で、右肩あがりに増加するヒスパニック層に強い関心を集めていることは疑いようがない事実である。

 ゴロフキンは、米西海岸、東海岸で人気があるが、カネロのようなPPVが売れる選手ではない。PPVで行われたレミュー戦は15万件、ジェイコブス戦は17万件世帯にとどまり低調におわっている。この数値で見て分かるとおりカネロとの差は歴然である。
 
 その背景は、2人のバックグラウンドが異なることからだ。仮に、ゴロフキンのルーツがメキシコにあったら、全盛期もずれることなく今頃スーパースターになっていたはずである。ただ、PPVスターでないからといってカネロ戦で130万世帯の売上を記録しミリオンヒットに至ったのは、何もすべてカネロの恩恵ではなく、ゴロフキンとのマッチアップによって莫大な価値が生まれたと考えるべきだろう。

数%が数1000万、数億になる

 PPVは、たとえ5%であっても報酬に与える影響は莫大な金額となる。”プライドに拘った”という見方もあるが、大方その理由は報酬だろう。PPVビジネスモデルは、ユーザが購入しなければ視聴することができなくデメリットを指摘する声もすくなくない。だが、選手にとっては巨額の利益を生み出すシステムである。

 米フォーブス誌、スポーツ長者番付にゴロフキンが72位に初登場、2017年稼いだ報酬は2500万ドル(約27億3700万円)。内訳は、2300万ドルがボクシングで得た報酬、残り200万ドルがナイキ・ジョーダン・ブランド、テカテ、Hublot(高級腕時計ブランド)ら、スポーンサーから得た収益となっている。

 実はこの2300万ドルの収入、殆どがカネロ戦で得た収入なのである。カネロ戦前、3月米ニューヨークで行われたダニエル・ジェイコブス戦の報酬は、僅か250万ドル(約2億7000万円)、カネロ戦、ゴロフキンの最低保障金額が3億円、この金額に対し最終的にPPV歩合が合算され、2050万ドル(約22億4500万円)までに押し上げられている。カネロの薬物違反で再戦が中止、ゴロフキンがGBPから掲示された条件においそれと同意するとは思い難い。ギリギリまで駆け引きするつもりだろう。

ゴロフキン、カネロの再戦交渉再び開始か?!

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 ローフラー氏は「まだ、オスカーと話してないけど、GBPエリック・ゴメス氏と交渉している」。交渉を継続していることを明かしている。 

 「ゲンナディは45−55に譲歩しカネロをAサイドにするだろう。カネロは55%得ることができる。初戦よりビッグイベントになる。ゲンナディにとってこれが最大の戦いで我々が臨んでいる戦いなんだ」。ゴロフキンは、報酬分配で50−50の強硬姿勢を示していたが、取り分を45に下げ譲歩する姿勢を示している。

 ミドル級の帝王ゴロフキンは、36歳をむかえキャリアは後期にはいっている。もはや4団体王座統一はトップ・プライオリティではなくなった。

 IBF王座を失い保持するベルトはWBA・WBCの2団体のベルトのみ、時間が限られている中でこれからIBF、WBO王座を獲得することは現実的とは思い難い。

 帝王ゴロフキンといえども年齢に逆らうことはできない。そう遠くない未来に引退する時がやってくるはずである。であれば、今後のマッチメークはより厳選、ビッグ・マネーを生み出すカネロや、村田諒太(帝拳)に方針を切り替えていくことは間違いないだろう。

 ただ、カネロとの再戦が実現するかどうかは余談を許さない状況に変わりはない。両陣営は報酬分配をめぐり交渉がエスカレートした経緯もある。

 再戦交渉が再開する可能性はあるが、”55”でGBPが首を縦にふり合意できるかどうか。デッドラインが過ぎているだけに、交渉を締結するうえでどちらかが歩み寄ることが求められる。何れにせよ、残された時間は少なく今後2週間前後が交渉の山場となりそうだ。

シリーズ4、村田諒太、東京ドーム構想に続く。

(Via:ESPN

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