世界タイトルマッチで比嘉大吾が日本人として初の体重超過の失態。諸事情があることは理解できるが結果が全て、ボクシング・ファンは大きな失望感を抱いたにちがいない。

 ファンの間では陣営のミスだと批判する声は少なくない。それはもっともな意見だ。比嘉が減量苦であることは周知の事実。陣営がどういった分析をし2ヶ月半という短いスパンで防衛戦を行うことに対しゴー・サインをだしたのか疑問が残る。批判の矛先が陣営になっても仕方がない。

 陣営が前試合の減量状態、選手の定期的なコンディション管理を行いリスク分析していれば2ヶ月強の調整で防衛戦を行うのはリスキーと判断する材料は十分揃っていた。比嘉の減量苦は有名で、試合の度に減量のエピソードがクローズ・アップされていた。つまり、いつこういった事態になっても不思議ではなかった。

 昨年の初防戦前の試合では、減量苦からパニック障害を発症。世界タイトル戦では脱水症状を起こしている。もちろん、陣営は苦渋の決断だったことは理解できる。ボクシングはTV局の都合で日程が大きく左右される。このタイミングを逃せば次戦の日程が見え難い面もある。

 比嘉は直近の試合でインパクトのあるノックアウト劇を披露。視聴者、ファンの印象深かった試合であったことから印象が薄れないうちに次の防衛戦を行いたい意向もあったはずである。

 しかし、興行都合、16戦連続16KOの記録更新があったとはいえその代償はあまりにも大きかった。あらゆるリスクを想定すれば今回のような最悪の事態は防げたはずである。再発防止策を含め適性階級の見直しも必要だ。

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比嘉、ロサレス戦の体重超過の経緯

 2018年4月15日横浜アリーナで、WBC世界フライ級タイトルマッチが行われクリストファー・コラレスが比嘉大吾を9回TKOで下し王座獲得に成功。計量前日に行われた記者会見に出席した比嘉大吾は覇気がなくソーシャルメディアでは「減量が上手くいってないんじゃないか」。比嘉のコンディションを心配する声が多く聞かれていた。

 14日、ホテル・グランド・パレスで前日計量で恐れていたがことが現実となった。比嘉の体重はフライ級リミットを900グラム超えの体重超過。世界タイトルマッチにおいて日本人初の計量失格者となってしまった。

 再計量まで2時間の猶予が与えられたが、午後2時半すぎに比嘉の所属する具志堅用高会長が計量会場に現れギブアップを宣言。再計量を諦めた。

 その後、JBC、WBC、プロモーターらが試合開催について協議し条件付きで試合を開催することが決定。比嘉には当日計量が設けられ、計量をクリアできなければ中止、当日メディカル・チェックを行い問題なければ開催されることになった。

複数階級制覇を見据えての減量

 近年、日本では成長期に合わせ階級をあげ複数階級制覇を見据え減量するケースは珍しくない。階級をあげるタイミングの見極めは重要だがメリットもあり理にかなっている。

 昔と違いTVの視聴コンテンツは、多様で競争は増しその中でもボクシング人気は低迷している。統括団体もメジャー4団体となり、もはや王者だけの肩書きだけではインパクトは弱い。最近ではTVが中継する興行もダブル、トリプルの世界戦が中心。話題を集めることができる選手のブランディング力も問われる時代へ変化している。

 フィリピンの英雄マニー・パッキャオのように階級を上げセンセーショナルな勝ち方をしてゆけば、注目度は高まり興行を主宰するプロモーターやTV局もからしても売り出しやすいといったメリットもある。

 当日の体調、コンディション管理さえ調整できれば、階級制競技なだけにフィジカル的に有利に戦える。実際、前日より当日に体重が3階級以上膨れ上がるケースも少なくない。

 2017年11月、元WBA世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブスがルイス・アリアスと対戦した際にジェイコブスの当日の体重は3階級上のクルーザー級にあたる185ポンドあったと言われている。

 しかし、減量することで試合の中で大きなアドバンテージを得るが、同時に今回起きた比嘉のような最悪の事態を招くリスクもある。過度の減量は心身ともに負担も大きく当日のパフォーマンスにも大きく影響する。

記録と引き換えにえた代償

 責任の所在はともかく、比嘉の減量苦は明白であり陣営は慎重にゴー・サインを出すべきだったことは明白である。比嘉は最短で3ヶ月半で次の試合に臨んでいるが、今回は直近の試合から2ヶ月半という短い期間で減量含めコンディション作りを余儀なくされている。

 「あれだけの筋肉量ですからあと、あと1、2試合がいいところだと思います」。
 比嘉のトレーナーを務める野木氏はこう語っている。

 試合間隔が短ければウェイトを作りやすい利点もある。しかし、その前提条件は普段から節制し増減幅の少ない選手に限られてくる。

 比嘉の場合は体重の増減幅が大きい。リセット期間が短く試合までの期間が短ければ身体への負担は大きくなり、トレーニング期間から減量期間に入る期間も短縮される。

 そうなれば、スパーリングなどエネルギーを大量に消耗するハードなトレーニング時間も制約され十分なトレーニング期間を設けることも難しくコンディション不良に陥るリスクも必然的に高まる。

 報道では、比嘉は2月下旬の段階で過去最高の62キロ。1ヶ月半で約12キロの減量が必要、陣営は1ヶ月前の間で8キロ減量する計画だったという。

 もちろん、体質にもよるが減量苦の比嘉にとってリセット期間も短かく、バッファがないスケジュールは精神的に追い詰められるだけでなく、十分なトレーニング期間を得ることができなかったことは容易に想像がつく。

 よく減量美談など聞かれるがボクシングは減量を競い合うスポーツではない。体格、リーチ階級別の優位性を考え減量するが適正階級の見極めは必要。規程の体重に仕上げることはプロとして当然である。

 おそらく、今回の世界タイトルマッチ枠は尾川堅一の初防衛戦が計画にあったが薬物問題で出場が事実上不可能となり、比嘉にオファーがやってきた可能性は高い。

 こういった諸事情に加え、前述したとおり陣営は苦渋の決断に迫られたのは間違いない。しかし、結果的に世界タイトルマッチで日本人が始めて体重超過を犯し汚点を作ってしまったことは事実である。今回の問題は体重超過してしまったことは勿論、陣営が減量苦であることを問題として認識していたことにある。

 2018年3月ネリの体重超過に加え、こういった不祥事が続けば、競技の正当性が疑われ結果的にボクシング人気低迷に拍車をかけることも否定できない。失った信頼を取り戻すためにも、原因の洗い出し、再発防止策に加え適性体重の見極めを実施して欲しい。

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