2017年、世界のボクシング界の中心地米国に新たな風が吹いている。来年以降に勢力図が大きく変わるかもしれない。その開幕戦とも呼べる重要なイベントが米ニューヨークで開催される。米ブルックリンを代表する人気者”ミラクル・マン”ダニエル・ジェイコブス(米)がかえってくる。米プレミア・ケーブルTV局HBOと電撃契約を果たし重要な一戦を迎える。

 ジェイコブスは、2017年11月11日に米ニューヨーク州ロングアイランドにあるナッソー・コロシアムで、WBC同級3位のルイス・アリアス(米)/18戦全勝9KO1NCと対戦する。2017年3月にニューヨークの殿堂マディソン・スクェアガーデンでミドル級帝王ゴロフキンに敗れた以来およそ8ヶ月ぶりにリングへ復帰する。

 この興行は兼ねてから米国進出を公言していたボクシング界の重要人物の1人、エディ・ハーン氏率いるマッチルーム・ボクシングの米国初のイベント。中継は今後、米国でイベント開催するにあたりサポートしていくと見られるHBOが配信する。

ジェイコブスはHBOと契約!

photo by:HBO Boxing

 ジェイコブスは、9月に米プレミア・ケーブルTV局HBOと複数戦契約を締結したことを発表。さらに、エディ・ハーン氏率いるマッチルーム・ボクシングと契約することを電撃発表した。ジェイコブスがアル・ヘイモン氏を離れHBOと契約した意味は大きい。ジェイコブスは11月米ニューヨーク、バークレイズ・センターでShowtimeイベントに出場することが検討されていた。

 ジェイコブスはそれまで北米で影響力の大きいアル・ヘイモン氏と契約を結んでいた。HBO、マッチルーム・ボクシングと契約した際ヘイモン氏との契約は結んだままと報じられていたが、ジェイコブスはヘイモン氏から離脱すると報じられている。

  「マッチルーム・ボクシング、HBOと契約したことに本当に興奮している。これは新しいキャリアの始まりだよ。世界に自分のスキルを誇示する機会を得た。11月にリングへ復帰することが待ちきれないよ。ミドル級王座を取り戻す」。

 契約発表の際にジェイコブスはこう語っている。ジェイコブスにとってヘイモン氏から離れHBOと契約することが最善のオプションだったのは間違いない。ゴロフキン対カネロ戦が実現し、それまで動きが少なかったミドル級が活性化しビッグマッチの機運が高まっている。
 
 ミドル級帝王ゴロフキンを中心に興行価値の高いタレントが多く揃うミドル級はHBOがマッチメークのキーを握っていると言っても過言ではない。HBOは今後2018年にかけて、ゴロフキン対カネロの再戦をはじめ、GBP傘下のデビッド・レミュー(カナダ)、WBO世界ミドル級王者ビリー・ジョー・ソーンダース(英)、HBOと複数戦契約をしたデメトリアス・アンドレード(米)らを交えシナリオを描いているだろう。
  
 ゴロフキンと善戦したジェイコブス、ミドル級トップ戦線に加わりたいのが本音。ヘイモン氏から多額の報酬は受け取れても多くのリスペクトが得られるビッグマッチ実現は難しい。

 ヘイモン氏傘下のミドル級で興行価値の高い選手はまだ育っていない。WBC同級1位のジャーモール・チャーロ(米)が同じヘイモン傘下で両陣営が前向きであれば交渉は成立し易い。しかし、チャーロにとってメリットがあってもジェイコブスメリットは少ない。ジェイコブスがのぞむビッグマッチとは言いにくい。

 たとえチャーロに勝ったとしてもその先のマッチメークが見えにくい。さらにゴロフキン、カネロはHBOと独占契約を結んでいる関係上Showtimeと関係が深いヘイモン氏と契約していることはマイナス。ジェイコブスがのぞむビッグマッチ実現は困難を極めるだろう。

 ヘイモン氏は、HBOと相反するShowtime(米・大手ケーブルTV局)と関係が深い。ヘイモン氏が取り仕切るPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)はShowtimeへカードを提供してきている。ビッグマッチが決まらない要因は大方が放映権の問題である。この問題はキャリア停滞を招く危険性さえある。

 ゴロフキン戦はHBOで実現したとはいえ交渉は難航しようやく実現。後のビッグマッチをのぞむのであればHBOにサインすることは最善のオプションである。HBOと契約すればこれらの問題は全て解消されるからである。

 ゴロフキン、カネロとのビッグマッチも現実味を帯びてくる。ジェイコブスとHBOの詳しい契約内容は明らかとなってないが、ゴロフキン或いはカネロとの対戦が契約条件に入っていても何ら不思議ではないだろう。

マッチルーム・ボクシングが米国進出

 エディ・ハーン氏率いる英国マッチルーム・ボクシングがついに米国へ進出する。海外のボクシング好きなファンであれば、一度はエディ・ハーン氏、マッチルーム・ボクシングというワードを耳にしたことがあるだろう。

 マッチルーム・ボクシングは今やバブル絶頂期の英国ボクシング界の火付け役である。最近ではジョシュア対クリチコ、クロフォード対インドンゴやバーンズ対クローラなどファンの求める好カードを次々に実現している。

 英国ボクシング界のアイコン的存在WBA・IBF世界ヘビー級統一王者アンソニー・ジョシュアをはじめWBA世界Sフライ級王者カリ・ヤファイ、リッキー・バーンズ、スコット・クイッグなど人気選手を傘下に収め、米国で強い影響力をアル・ヘイモン氏とも良好なビジネス関係を築いている。

米国ボクシング界の勢力図が大きく変わる

 マッチルーム・ボクシングは、トップランクがHBOを離脱した後釜、2018年に米国で4つのイベントを開催する方針を示している。

 長らくHBOとパートナーを組んできたトップランクがHBOを離脱。空いた放送枠に米国進出を目論むマッチルーム・ボクシングが入り込む形となった。今後、HBOと協働しビッグマッチを画策してゆくことは間違いないだろう。

 トップランクはHBOと長年パートナーを組んできたがHBOから離脱することを選択した。トップランクはESPNと4年間の契約を締結。ESPNがトップランクに放映権を支払うことで合意した。

 それまでトップランクのイベントは完全にHBOに依存した状態だった。看板選手を多く抱えるが試合が決まらずボブ・アラム氏は痺れを切らしHBO以外のホスト局と契約することを示唆していた。
 
 一方で、HBOは親会社タイムワーナーの業績不良を受けボクシング中継枠の予算は年々削減。HBOはGBP、K2プロモーションズとの関係性も深くマッチメークは厳選、予算減の影響もありペイ・パー・ビュー(PPV)に頼るという事情もあった。

 マッチルーム・ボクシングとジェイコブスとの契約はお互いの利害が一致した面もあるのだろう。米国進出に伴い興行の目玉となる代表的な選手が欲しかったのは間違いない。いくら、英国で人気のある選手を集めても米国は異国の地。米国にゆかりのない選手が集まっても興行的には苦戦を強いられることになる。

 ジェイコブスは米ニューヨーク、ブルックリンを拠点としバークレイズ・センターではメーンを務める。ニューヨークは地元でありイベントの集客面でジェイコブスを起用することで大きな恩恵を受けるだろう。

  「年に4回〜6回のイベントを開催したい。HBOに独占的にコンテンツを配信してゆく形になると思うけど、まずは自分で証明しなければならない」。

 ハーン氏はこう語っている。今後は、HBO、他プロモーターと関係性を深め協力。米国でマッチメークするにあたり重要なポジションになってきそうだ。2018年2月に「Superfly2」が計画。出場枠にはハーン氏傘下であるWBA世界Sフライ級王者カリ・ヤファイ(英)も噂されている。

 ライト・ヘビー級プロスペクトWBA世界ライト・ヘビー級王者ドミトリー・ビボル(ロシア)のプロモーション契約の噂もある。そうなれば、HBOのイベントでスリバン・バレラ(キューバ)や、元3団体統一王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)らのビッグマッチも見えファンにとっても魅力的な好カードが組める。

 HBOがアンソニー・ジョシュア獲得に動いているという噂もあり、マッチルーム・ボクシングの動向から目が離せない。

ジェイコブス対アリアス 直前情報

 前日計量が現地時間10日に行われ、ダニエル・ジェイコブスが159.6パウンド、ルイス・アリアスが160パウンドで計量を無事クリアしている。

・ダニエル・ジェイコブス
プロ戦績:34戦32勝(29KO)2敗(1KO)
アマチュア戦績:144戦137勝7敗
2004年ナショナルゴールデングローブ・ウェルター級で優勝
2006年全米選手権ミドル級で優勝
身長:185cm
リーチ:185cm

・ルイス・アリアス
プロ戦績:19戦18勝(9KO)1NC
アマチュア戦績:165戦140勝25敗
2008年AIBA世界ユース選手権 銅メダル
全米ボクシング協会(USBA)ミドル級王者
身長:180cm
リーチ:?

photo by:boxingscene

「ダニーとのマッチメークを決めてくれたロックネイション・スポーツ、マッチルーム・ボクシング、HBOに感謝しています。ダニー戦のような大きな戦いに飢えてました。世界に衝撃を与えるつもりです。ダニーは優れたファイターだけど、11月11日に世界のボクシング界に自分の力を示すことを楽しみにしています。ダニーとの戦いが次のレベルの戦いです」。

 ルイス・アリアスはこう語っている。アリアスは米ウィスコンシン州ミルキーウェイ生まれだがはニカラグア、キューバのルーツを持つ27歳。母親はニカラグア、父親はキューバ人である。アリアスは通称”キューバ”、これは父親のルーツに敬意の表れ。現在は、Jay-Z率いるロックネイション・スポーツ(RNS)と契約している。ジェイコブス戦は文字通りアンダードッグの位置づけである。

 2008年AIBA世界ユース選手権ミドル級で銅メダルを獲得。2012年ロンドン五輪出場を検討するもプロへ転向。2012年米・カリフォルニア州ロサンゼルスにあるステイプルズ・センターでプロデビュー。順当に勝ち星を積み、2015年2月にRNSと契約を果たしている。

 2016年にダリル・カニングハム(英)と空位のUSBAミドル級王座決定戦を行い3回TKO勝利。その後、2017年にアリフ・マゴメドフ(ロシア)/20戦18勝11KO2敗(1KO)と対戦し勝利しジェイコブス戦の切符を手にしている。アマチュア経験も豊富で敗戦しているが、テレル・ガウシャ(米)、ジェシー・ハート(米)、エンリコ・コーリン(ドイツ)らと拳をあわせてきている。

 パンチもコンパクト、体が柔らかく防御から攻撃、攻撃から防御の移行もスムーズでムービン・センスも光る。相手を迎撃できる右アッパー、右ストレートを備えインサイド、ロングレンジでも戦える幅広い戦術を持っている。ミドル級ではフィジカルの強度も十分、タレントが多く揃いスポットライトが当たってないが、マドメゴフを相手に力の差をつけ証明したことは大きくミドル級実力者であることは間違いない。
 

photo by:boxingscene

 「英国でジョシュアが成功したことを考えると、エディー・ハーンは米国で成功を収めると思う。彼にはそれを成し遂げるための大きな経験があるし簡単なことだろうね。HBOに戻ることができたし、僕にはスーパースターにしてくれる最高のチームが揃っている。マネージャー、プロモーター、TV局のプラットフォームも持っているしね」。

Via:The Ring

 ジェイコブスは2017年3月にニューヨークの殿堂マディソン・スクエア・ガーデンでミドル級帝王ゴロフキンと戦い判定負け。負けたとはいえ、ゴロフキンに善戦しミドル級トップレベルであることを証明。ジェイコブスの評価を上げた試合だった。大方が、中盤以降ゴロフキンのKOを予想していただろう。ゴロフキン対ジェイコブスを中継したHBOは、ジェイコブスに高い関心を示していたという。

「ゴロフキン対カネロの再戦の勝者と戦いたい。これがHBOと契約した理由だ。もし、再戦が実現するなら4月にソーンダース対レミューの勝者へ挑戦したい」。

Via:boxingscene

 HBO、マッチルーム・ボクシングの契約はジェイコブスのマネージャー、キース・コノリーが協力したという。ジェイコブスはアル・ヘイモン氏から得られる高額報酬ではなく、多くの名声が得られるゴロフキンやカネロとのビッグマッチを選択したと言える。

 復帰戦の相手としてルイス・アリアスは簡単な相手ではない。経歴ではジェイコブスが上とはいえアリフ・メゴメドフ(ロシア)を相手に力の差をつけ勝利している。ただ、アリアスを下せばゴロフキン、カネロ、ソーンダース、レミューらとのマッチメークは既定路線となる。それだけに、この一戦は今後のミドル級を占う意味でも重要な一戦であることは間違いない。

 さらに、ジェイコブスと契約したマッチルーム・ボクシングの米国進出初のイベント。米・ニューヨークは2016年の保険問題が解消され興行ラッシュを迎えている。11月25日、12月9日はMSGシアターでイベントが控えている。興行ラッシュに加えマンハッタンから離れたロングアイランド開催も少なからず影響がありそうだ。HBOの視聴件数、ゲート収益、興行成績にも注目したい。

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