日本の秘密兵器”モンスター”WBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(大橋)が全米デビューを果たした。米国進出が期待され2年半、日本屈指の軽量級界期待の新星は、世界の軽量級界スター候補へ一歩前進した。

 WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが、2017年9月9日に米・カリフォルニア州カーソンにあるスタブハブ・センターで行われ、王者井上尚弥(大橋)が、WBO同級7位アントニオ・ニエベス(米)と対戦し、6回終了時ニエベス陣営の試合放棄により6度目の防衛戦に成功した。

全米デビュー戦は成功

 井上の全米デビュー戦の評価は見方によっては別れそうだ。中継したHBO他、米メディアは井上を絶賛する声は多い。一方で「確かに強い・・・」。と、強さを認めながら様子見の姿勢を示しているメディアも少なくない。

 「井上のフィニッシュは米国のファンに印象的だった。HBOでより高いステージで彼を見たいね」。ESPN記者のダン・レイフィール氏は、自身のブログを通してこう述べている。

 躍動感溢れる攻撃、コンビネーションはどれも迫力十分、5回にダウンを奪ったボディは井上の真骨頂。全米デビュー戦で観客を魅了するには十分な内容だった。本場米国のファン、関係者に好印象を与えたことは間違いない。

 インターネットの海外のボクシングファンの間では「井上の米国デビューのお披露目としては良かったと思う」。「スーパーフライ級では素晴らしいファイターだね。でも、階級を上げた時にどうなるか興味深い。同じようにパワーショットを与えられるかどうか、最高のディフェンスはオフェンスでもあるんだ」。など多数のコメントがあがっている。

ニエベスの知名度が評価を分ける

 評価が分かれるポイントとして、アントニオ・ニエベスの知名度の問題がありそうだ。世界ランカーだがニエベスは米国では殆ど無名。絶対的なKO劇であれば与えるインパクトは大きいが、陣営による試合放棄。ニエベスのネームバリュー不足が評価に与える影響は大きそうだ。

 ニエベスは格下であり、試合前のオッズは14対1で井上が圧倒的有利。つまり、勝って当たり前で勝敗よりも内容が問われる試合だった。しかし、ニエベスはプロ、アマ通じてダウン経験はなくディフェンスも固い。それだけに、井上にかせられたハードルが高かったのも事実だろう。

 もちろん、井上本人が試合前に「インパクトのある勝ち方をします」と語っていたとおり自分のミッションを十分理解していたに違いない。だからこそ、勝ったが満足できなかったのだろう。

 ニエベスは5回に井上のボディでダウンを喫した以降、戦意はなく勝つ意思は感じられなかった。井上でなくても防御一辺倒のニエベスをフィニッシュすること難しかったはずである。

 ニエベスでなくネーム・バリューのある対戦相手であれば、WBO世界スーパーフェザー級王者ワシル・ロマチェンコがニコラス・ウォータースを圧倒し戦意喪失に追い込んだように、今回のような勝ち方でも誰もが認めただろう。

 もっとも、スターになる人材ならばあの展開になっても工夫して仕留めなければならない。という見解もあるだろう。確かにその通りだ。ただ、井上はプロ・キャリア僅か14戦、それは今後の課題として取り組んでいけば良い。

ゴンサレスとの軽量級メガファイトは消滅

 全米デビュー戦を無事に成功させた井上だが、今後、米国で試合をする上でライバル不足、対戦相手探しは難航するだろう。年内は国内か或いは米国でスーパーフライ級の防衛戦を行い、来年にはバンタム級にあげる公算が高い。

 9月9日、軽量級史上最大のイベント「Superfly」は成功を収めたが、唯一の誤算はローマン・ゴンサレスの敗戦だろう。HBO、プロモーターは近い将来に井上対ゴンサレスのシナリオ描いていたのは間違いない。Superflyはその伏線。井上にとってゴンサレスと戦う意味は大きかった。

 パウンド・フォー・パウンド上位に君臨するゴンサレスと日本のエースである井上尚弥が戦うことになれ軽量級史上最大のビッグマッチとして世界的に注目を浴びたはずである。井上が勝てば知名度、商品価値は急上昇。新たな軽量級スター誕生となっていただろう。

 ゴンサレスが衰えたとはいえ軽量級中心人物に変わりはなく存在感は大きい。軽量級の勢力図、PFPランキングも大きく変化しただろう。それだけに、ゴンサレスとの軽量級史上最大のビッグマッチが消滅したのは残念である。

今後は対戦相手探しは難航が予想

 井上は、HBO重鎮ピーター・ネルソン氏の評価も高く。近い将来に再度米国から招致がかかるだろう。ただ、そうなった時に米国で話題となるライバルが少ないことが唯一の懸念事項である。さらにバンタム級では英国勢が多く、交渉は難航することが予想される。

 スーパーフライ級のビッグネームは9月9日の「Superfly」に参戦した2階級制覇を狙う元WBA・WBO世界フライ級統一王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)だろう。ネームバリューがあり人気、実力を兼ね備えている。井上尚弥の対戦相手としても相応しく、Superflyに出場した軽量級ファイター同士の対決として注目をあびるだろう。

 しかし、順当にことが運べばエストラーダは、ゴンサレスに勝利したWBC世界スーパーフライ級王者シーサケット・ソー・ルンビサイ(タイ)へ挑戦する公算が高い。すでにK2プロモーションは、年末か2018年実現に向け動き出している。エストラーダがシーサケットとの対戦を断らない限り年内に井上との対戦が実現する可能性は限りなく低い。

アンカハスとの統一戦か?!

 現在報じられているようにIBF世界スーパーフライ級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)/29戦27勝(18KO)1敗との王座統一戦が現実的なオプションの1つだろう。

 WBA同級王者カリ・ヤファイもいるが、次戦は10月28日に同級1位の石田匠と防衛戦。年内に統一戦を行うことは試合間隔から現実的ではない。

 アンカハスは、直近の試合はHBO(米・最大手ケーブルTV局)より加入者が多いESPN(米・スポーツ専門チャンネル)で中継されている。対戦が実現し何らかの形で、試合が米国へ配信する形となれば日本開催であってもメリットは高い。

 アンカハスはトップアマ出身のマックジョー・アローヨ(プエルトリコ)から王座を奪取している実力者である。実現すれば井上本人が言う通りスーパーフライ級の最後を締めくくる相手として最適。勝てば形を残しバンタムへ転向できる。

 アンカハスは7月にオーストラリア、ブリスベンにあるサンコープ・スタジアムで行われたマニー・パッキャオ対ジェフ・ホーンのセミ・ファイナルで帝里木下(千里馬)と対戦し、7回TKO勝ちを収めている。アンカハス対帝里の試合の視聴件数は不明だが、メーンのパッキャオ対ホーン戦の最大視聴件数は400万件を超えている。

 バンタム級は英国勢が君臨。米国で実現したとしても大きな話題にはなり難い。さらに英国ボクシング界はバブル絶頂期、マーケットは大きく英国以外の開催は困難を極めるだろう。

 もちろん、井上が渡英すれば世界的にも市場価値は向上するが、日本にマーケットがある以上、報酬条件や陣営の方針次第と言える。

 統一戦が決まっているWBAスーパー王者ザナット・ザキヤノフ(カザフスタン)と、IBF王者ライアン・バーネット(英)。WBO王者には来日経験もあるゾラニ・テテ(南アフリカ)が君臨している。

 バンタム級以降は先行きは不透明だが、開催地がどこであれ強豪と戦い勝利していけば井上の評価は着実にあがってゆくだろう。

 今後、どのようなキャリアを描いていくか不透明だが、米デビュー戦で井上をまた見たいと思い、軽量級の未来を担う多くのポテンシャルを秘めたボクサーと感じた米国ファンは多いだろう。

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