亀海がプエルトリカンの英雄コットに勝てば世界のボクシング史に名を刻むことになったのは間違いない。しかし、世界の猛者達が集う中量級、日本人ボクサーと世界のトップクラス・ボクサーとの壁は厚い。

 亀海は負けたとは言え中量級で本場、北米に乗り込みビッグマッチを掴んだ初のモデルケースとなる。北米で、ファン・ベースがない日本人がコットのようなビッグ・ネームと、ビッグファイトが成立したことは奇跡に近いと言っても過言ではない。

 米国現地時間2017年8月26日に、カリフォルニア州カーソンにあるスタブハブ・センターで、WBO世界スーパーウェルター級王座決定戦が行われミゲール・コット(プエルトリコ)が、亀海喜寛(帝拳)と対戦し12回3−0(120-108, 118-110, 119-109)の判定勝利を収め、王座返り咲きに成功した。

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コット有利だったのは否めない

 試合前、日本のファンの予想では「亀海KO勝利」という声が多くあった。一方、米関係者の間ではコット有利とするも亀海がコットをロープに追い詰めれば亀海にもチャンスがあるという声もあった。筆者はコットの経験値が上回りコットの判定勝利を予想していた。

 対格差は必ずしも試合で有利に働くとは限らない。コットはキャッチ・ウェイトとは言え、ミドル級のトップレベルのファイターと同等以上に戦い、更にミドル級世界トップレベルの技術を誇るカネロを相手に互角のスキルを誇示している。

 知名度を上げたソト・カラス、ゲレーロ戦は参考にならない。ゲレーロはウェルター級とは言え、ナチュラルなウェルターではなく元はフェザー級のファイター。ナチュラルな亀海のフィジカルが通用した面が大きい。

 好試合が予想されたソト・カラスはファイター・タイプ、北米よりにチューン・アップした亀海独自のファイト・スタイルはソト・カラスに対しより有効に機能したと言える。

 しかし、フレディ・ローチ氏と組んだコットはよりクレバネスだ。ソト・カラス、ゲレーロのように亀海の土俵では戦わない。亀海のファイト・スタイルがどこまで通用するかは未知数だった。よぎるのはアルフォンソ・ゴメス戦だった。

 コットの年齢は36歳、さらにこの試合は実に約21ヶ月ぶりの試合。長期のブランク、年齢は36歳とコットが錆びついていてもおかしくない。一方で亀海は、ウェルター級の門番ヘスス・ソト・カラス(メキシコ)の再戦を完勝。亀海に対する期待感は大きく、コットの長期ブランクは勝利予想の懸念材料と繋がったのだろう。

プエルトリカンの英雄コットの壁は厚かった

 レジェンド・コットに勇敢に挑ん亀海は「ただただ勝ちたかった」。試合後の記者会見でそう語った。フィジカル差があると思われたが、もはやそんなことは関係なかった。これが現実、世界のトップレベルとの差だ。コットとの経験値の差は想像以上。コットは、この戦いに向け最高のコンディションを作り上げたことは間違いない。

 「犬のように追いかけ、ゴリラのように殴る」。亀海が試合前こう語っていたとおり、得意とする近接戦に持ち込めなければ勝機はなかった。コットは敗戦こそあるものキャリアでパッキャオ、メイウェザー、モズリー、ジュダーと高水準の対戦相手と戦い数多くの修羅場を経験し体得してきたものの違いは大きい。

 亀海は勝機を見出すことが難しかった。体格で上回る亀海が下から突き上げる強いフィジカルに逆に亀海は苦戦を強いられていた。亀海はロープ際まで追い詰めても、コットは高度なロープ・ワークですり抜け、体位を入れ替え高いディフェンス能力を誇示した。

 亀海もコットの攻撃に対し、日本人離れした、ショルダー・ロール、スリッピング・アウェーを合わせた複合型のディフェンス・ワークを駆使しダメージを軽減。しかし、コットの打ち終わりに打てる体制を作れず止まる場面が多くペースを持っていくことが困難な状況だった。

 後半、コットはフットワークを駆使しながら多彩なアングルから放つパワー・ショットが幾度となく亀海を捉えた。ダメージを軽減しているとは言え、あれ以上貰っていれば危なかった。8回にはドクター・チェックがはいっている。

 さらに、亀海が得意とする近接戦に持ち込んでも、コットは下から突き上げるアッパー、クリンチ・ワークで亀海が得意とするインサイドでの攻撃を遮断。コットは、亀海の打ち終わりに効果的なコンビネーション4発、5発と叩き込んでは、ステップバック、左右のフットワーク、ボディワークを織り交ぜ亀海を翻弄。

 コットは萎え、錆など全く感じさせず最高のコンディションだった。タフな亀海を相手に勝利、12月のビッグマッチに駒を進めることを証明した試合と言える。

亀海は称賛されるべきである

 ミゲール・コットは、殿堂入りが確実視されている名実ともに人気のある正真正銘のスーパー・スターである。そんな、レジェンド、コットと亀海喜寛が戦う。これほど大きな意味がある戦いはない。さらに亀海はコット戦のチャンスを自ら掴んだ男である。称賛されてしかるべきだろう。

 コットは、プエルトリカンが多く居住する米東海岸ニューヨークにあるメッカ、マディソン・スクウェア・ガーデン・アリーナがホーム。数多くのビッグファイトを実現している。このアリーナを満杯にできる選手は北米を主戦場にしている選手でも数人だろう。

 2014年6月に行われたセルヒオ・マルチネス戦では2万1090人の観客を動員。直近、2015年6月に米ニューヨークにあるブルックリンで行われたダニエル・ギール(豪)戦では1万2157人の観客を動員。ギールは米東海岸がゆかりの地でないことを考えれば、コットが持つ求心力は大きく正真証明のスターである。

 ピーク時には、マニー・パッキャオ(フィリピン)、フロイド・メイウェザーJr.(米)に敗戦。商品価値を落とすが、名トレーナー、フレディ・ローチ氏とタッグを組みコットは輝きを取り戻すことになる。ミドル級の名チャンピオン・セルヒオ・マルチネス(アルゼンチン)を破りプエルトリカン初の4階級制覇を達成。その「勲章」よりもマルチネス戦でファンに関係者らに与えた衝撃は計り知れないものだった。

亀海は米西海岸でエキサイティングな試合を提供

 亀海は2015年1月にゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)と契約、これが転機となったことは間違いない。米国で試合を行うには有力プロモーターと組むことは欠かせない。さらに、中量級の本場米国で、ファン・ベースが無いアジア人が世界タイトルマッチまでたどり着くことは容易なことではない。GBPはヘイモンに大量の選手をリリースしたとは言え、オスカーの北米での影響力は大きくGBPなしでは、コット戦は実現しなかったと言える。

 米国で実質マッチメークの権限があるのは、HBO(米・最大手ケーブルTV局)らホスト局である。マッチメークは実力だけでなく、人気・知名度が大きく左右する。つまり、実力があっても米国で直ぐに世界タイトルマッチを行うことは難しく商品価値がものを言う。チャンスはIBF(国際ボクシング連盟)の指名戦くらいだろう。

 さらに、コットのようなビッグネームと戦うことは尚更困難である。ボクシングはビジネス側面が大きい。ビッグネームとなれば報酬が交渉する上で最も重要なポイント。近年では世界タイトルマッチよりもビッグネームとの対戦に駒を進める傾向があることは事実である。

 亀海は主戦場を米国に移しコット戦は9戦目にあたる。米西海岸を拠点に戦いエキサイティングな試合を提供。ファンの期待を裏切らない日本のサムライとして本場米国のファンに認知され愛されていたことは間違いない。だからこそメガケーブルTV局HBOもゴー・サインを出したのだろう。

 順風満杯にみえる亀海だが、コット戦にたどり着くまでは決して楽ではなかった。しかし、負けてもなお亀海が米で起用され続け、チャンスを与えられたのはファンを魅了するファイトスタイルがあったからだろう。

 2014年6月21日、米ケーブルTV局Showtimeの年間最高試合にノミネートされたロバート・ゲレロ(米)戦を経てGBPと契約。しかし、2015年3月に行われたアルフォンソ・ゴメス(メキシコ)戦で完敗。後楽園ホールで再起戦を経て臨んだ2016年4月16日に行われたソト・カラスとのサバイバル・マッチはドローに終わっている。

 この頃から徐々に亀海の名はソーシャル・メディアなどを通じ知れ渡りコアなファンに認知されていた。亀海対ソト・カラス戦は、米国のファンの間でも実現が望まれていた試合だった。ノー・ランカー同士の試合ながらエキサイティングな試合が予想され、米関係者の間でも注目を集めていた試合だった。この試合は米リング誌が「2016年間最高試合」にノミネートしている。

最適なタイミングだった

 2016年9月10日に、ソト・カラスとの再戦に勝利し、レジェンド、コットとの対戦を掴んだのである。やはり、タイミングが良かったのもあるだろう。コットはロックネイション・スポーツ(RNS)と契約し2016年2月にジェームス・カークランド(米)と試合が決まっていたが、カークランドの怪我で中止となっていた。

 コットと5000万ドルの巨額の契約をはたしたRNSだが、コットが確約されている報酬は15億円。それに見合う対戦相手を用意することが出来ずコットを持て余す結果となった。一時は、RNSと亀海をプロモートするGBPで交渉が合意間近と報じられていたが、HBOはこのマッチメークに難色を示していた。

 RNSは傘下に収める選手は少なく、コットのこの先のマッチメークが不透明だったからだろう。一時は、交渉決裂が報じられたがミゲール・コットがRNSとの契約を打ち切り、GBPと電撃契約し合意に至った。HBOがゴー・サインをだしたのは、GBPがコットと契約することにより、デビッド・レミュー、カネロらとのビッグ・ファイトのシナリオが見えたからだろう。

 勝てば世界のボクシング史に名を刻むことになった。結果として負けてしまったが、Bサイドとは言えGBPが亀海がコット戦に抜擢したのは、亀海が今までファンを裏切らない、アクション満載でエキサイティングかつハートに刺さる好試合を提供。それが評価された証である。日本のファンのみならず、本場米国のファンも日本のサムライ亀海のカム・バックを望んでいることは言うまでもない。

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