【結果】ロマチェンコ対中谷正義、試合背景から結果まで

 “Loma is Back”ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が中谷正義と対戦し9回TKO勝ちで再起に成功した。完全復活を遂げたロマチェンコは中谷に何もさせなかった。中谷は世界最高峰を相手に負けはしてしまったが、テオフィモ・ロペス(米)に善戦。ベルデホを逆転KO、この舞台まで上がってこられたことの意味は大きい。

 勝ったロマチェンコはプロ通算17戦15勝11KO2敗、負けた中谷は21戦19勝13KO2敗1KOとした。

 日本では中谷に大きな期待がかかっているがオッズは乖離している。ウィリアム・ヒルのオッズは、ロマチェンコ1.06倍、中谷が8倍とロマチェンコに大きく傾いている。中谷が勝てば大番狂わせだ。今回のレビューは、ロマチェンコのキャリアの簡単な振り返りから中谷にとってどんな戦いなのか見てみたい。

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ロマチェンコのキャリアを振り返る

 現代ボクシングの最高傑作といわれるのがロマチェンコだ。どれほどのボクサーなのかは分厚いレジュメでよく分かる。

 五輪2大会連続金メダルを獲得したロマチェンコはプロ転向。3戦目でフェザー級世界タイトルを獲得し7戦目でスーパーフェザー級へ階級をあげ2階級制覇を達成。そして12戦目で3階級目となるライト級進出を決め世界最速最短3階級制覇を達成した。

 五輪2大会連続でプロ入りを表明したロマチェンコに対する関係者らの期待は高かった。有力プロモーター・トップランク社をはじめオスカー・デラ・ホーヤ、リチャード・シェイファーが率いるゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)、キャシー・デュバが獲得に向け動いた。

 東ヨーロッパ勢をまとめるイージス・クリマス氏をマネージャーにしたロマチェンコ陣営は1戦目で世界タイトルマッチを用意できることが契約の条件。プロ転向を表明したロマチェンコはレガシーを築くことを掲げていた。

 無理難題にキャシー・デュバ氏は断念。ロマチェンコ陣営はGBPと交渉入。GBPは2戦目なら世界タイトル戦を組むことができると話し、ロマチェンコ陣営もGBPと契約することに決めたが契約書は送られて来なかったという。

 そして、トップランク社がオファー、取り仕切るボブ・アラム氏は「2戦目での世界タイトル戦ができる」と確約。ロマチェンコが契約書にサインした。

 プロ2戦目で体重超過したオルランド・サリド(メキシコ)のダーティー・テクニックで敗戦を喫するもトップランク社は3戦目でオリンピアンで評価の高かったゲーリー・ラッセル・ジュニア(米)と空位のWBO世界フェザー級王座決定戦を用意し12回判定勝ちしプロ3戦目で世界タイトル獲得に成功した。

 そして、7戦目。キャリアのハイライトになる130ポンド(スーパーフェザー級)に階級をあげローマン・マルチネス(プエルトリコ)と対戦。マルチネスを圧倒し失神KOしたロマチェンコの評価は鰻登りだった。

 その後、ニコラス・ウォータース(ジャマイカ)、ジェイソン・ソーサ(米)、ミゲル・マリアガ(コロンビア)、ロマチェンコと同じ五輪2大会連続で金メダルを獲得したギレルモ・リゴンドー(キューバ)、トップ・コンテンダーを棄権においやった。

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ロマチェンコ、ライト級に転向するも階級の壁

 パウンドー・フォー・パウンド(PFP)首位に踊りでたロマチェンコの評価は文字通り急伸。ロマチェンコは3階級目となるライト級進出を表明した。ホルヘ・リナレス(ベネズエラ)からWBAタイトルを奪取したが、プロ初のダウンを奪われたロマチェンコは楽な戦いではなかった。

 肩の怪我があったにせよ、フィジカル、パワー不足の他、得意のサイドアタックを封じられ攻略が見え130ポンド(スーパーフェザー級)で台頭した圧倒的なパフォーマンスは影を潜めた。もちろん、スキル面でトップボクサーと比較すれば傑出した存在で最高のボクサーの1人であることに異論はないが、ライト級でベストではない。

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ロペスに敗戦王座から陥落したロマチェンコ

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 ロマチェンコを下し番狂わせを起こしたテオフィモ・ロペス(米)。下馬評ではロマチェンコ有利。アナリストらは経験そしてスキルフルなロマチェンコが判定で勝利するという見方が殆ど。ロペス支持は少数派だった。

 しかし、ゲーム・プラン通り戦えたのはロペスだった。前半、ロマチェンコは相手を観察することに徹するがこの日ばかりは違った。ロペスは躊躇なく前半からワンツー、ボディとガードの上からハードなショットを打ち込みロマチェンコは警戒しているように映った。

 1ラウンドのロマチェンコの手数はわずか4発。その後、いつも3,4ラウンドからペースアップするかと思ったがそのまま。後半、コーナーに発破をかけられたか反撃に転じたが明らかに遅かった。

 日本では判定結果が物議を醸したが米メディアでは採点結果を問題誌する声は殆どなく、筆者の採点でもロペス勝ちは妥当だった。

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ロマチェンコがライト級に留まる理由

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 ロペスに負けこのままライト級から退散することができない。そして、中谷を倒せばロペスとの再戦やWBC王者デヴィン・ヘイニー(米)らとの交渉が具体化できる。ライト級最強であることを証明し130ポンドにさげるプランだろう。

 以前ロマチェンコ自身がライト級が適正ではないことを認め130ポンド(スーパーフェザー級)に下げることを表明。ライト級に留まることを決めたのは負けたまま退散したくないというプライドだと容易に想像がつく。

 「自分が負けたと思わなかった。もう一度、試合をみたけど私は負けてなかった」。
 いまだロマチェンコはロペスの敗戦を受け入れずにいる。最大の失敗は試合内容はともかく、契約に再戦条項をもりこまなかったことだ。それだけロペス戦に自身を持っていた証でもあるが、ロペスを軽視していた可能性はある。

 130ポンドに落とせばシャクール・スティーブンソ(米)やWBC世界スーパーフェザー級王者オスカル・バルデス(メキシコ)戦と魅力的なマッチアップが待っているが、プライドが許さないのだろう。米メディアが指摘するようにライト級残留を決めたのはトレーナーでロマチェンコの功績に大きく貢献した父アナトリーの影響も否定できない。

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ロマチェンコが中谷戦にサインした理由

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 敗戦を喫すると再起戦はチューン・アップ戦として厳しい相手がピックアップされることは稀だが、ロマチェンコが中谷をセレクトしたのは、中谷がトップコンテンダーであることが証明されているからだ。

 中谷はテオフィモ・ロペスと善戦。トップランク社のスター候補だったフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)を見事な逆転ノックアウト劇で葬りライト級で強い存在感を示している。

試合レビューは、「【結果速報】中谷正義対フェリックス・ベルデホ背景から結果まで」こちらを読んでほしい。

 「彼はロペスと戦った経験があるしタフな男だ。どちらが優れているか比較したい」。
 ロマチェンコがこう語るとおり、中谷がロペスと戦っていることも都合がいい。ロマチェンコが中谷を圧倒すればロペスとの再戦アピールに繋げることができる。

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中谷にとってどんな戦いなのか

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 世界タイトルマッチは別にしても近年、ロマチェンコは日本人が挑む戦いで最高峰の相手であることは間違いない。ロマチェンコは33歳、全盛期に近く明白な衰えをみせていない。下馬評では圧倒的不利なものこれまでの功績、先入観でみればロマチェンコとなるがどうなるのか。

 過去にガッツ石松がロベルト・デュラン(パナマ)に挑んだがデュランが世界的に高い評価を得るのは少し先。ロマチェンコは、最も権威あるBWAA(全米ボクシング記者協会)の2017年間最優秀選手に輝き、評価の物差しの1つパウンド・フォー・パウンド(PFP)の上位にランクしている。

 中谷は評価は上昇しているもの北米3戦目もアンダードッグとなる。大方の予想を覆したロペス戦を経て、フェリックス・ベルデホ戦が決まったがオッズは中谷ではなくベルデホ有利だった。そして、今回も大きくロマチェンコに傾いている。

 ロマチェンコに勝てば大番狂わせ、数年前に石田順裕が当時プロスペクトだったジェームス・カークランド(米)に大番狂わせを起こしたが、もし中谷が勝てばインパクトはそれ以上の衝撃となる。

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中谷対ロマチェンコ予想

 中谷、12回判定勝ち予想。といってもどうなるのか分からないというのが本音だ。中谷のパンチがロマチェンコにまともに当たれば倒れるだろうが、ディフェンス・マスターのロマチェンコを落とすことは相当難しいだろう。

ロマチェンコは相手のパンチを誘い、安全圏に身を置き瞬時にカウンターから攻撃を組みたてる精密機械。殺傷能力は高くないもの回転力がはやくスピード、アジリティ、クイックネス、リングIQに優れている。コンビネーションを貰えれば嫌でも消耗してくる。圧倒的優位なポジションを築き相手を戦意喪失に追い込むのがロマチェンコのスタイルだ。

まず、ロマチェンコの攻撃に繋げる行動を分断させたい。ヘッドスリップ、細かいフェイントを交え相手を翻弄し安全圏を確保。ベスト・ポジションから攻撃を繰り出すことが多い。ここで、中谷のパワー・ジャブや右ストレート、ボディ打ちで下がらせたい。

リナレス、ロペス戦ではっきりしているとおりガードの上からでも強打を叩き込まれるとロマチェンコの動きはそこでストップする。身体でも良いのでパンチを当てたい。もちろん、近い距離でヘッドスリップで掻い潜ってくれば反撃にあうリスクはある。

 気をつけないといけないのはロマチェンコのスピードだ。得意のサイド・アタックに限らず、ポジション変更、フットワークの動きは早い。踏み込みと同時に得意の左ストレートから回転の早いコンビネーションを叩き込んでくる。

 この辺りはすでに対策済みだと推測するがそれでも難しいだろう。中谷が所属する帝拳プロモーションズにはロマチェンコと戦いロマチェンコのアタックを幾度も回避したホルヘ・リナレス(ベネズエラ)が所属している。

中谷の不安材料

 もちろん、中谷はロペスやリナレスとは異なるボクサー。不安材料もある。米ESPN(米スポーツ専門チャンネル)解説を務めるティモシー・ブラッドリーが指摘するようハイ・スキルを持つロマチェンコに対抗するにはスキルが不足していることは事実。フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)戦はドラマチックで見事な勝利だったが、ディフェンスに大きな課題を残している。

 ロマチェンコに侵入を許せば速いコンビネーションの餌食になる。リナレスや勝ったロペスにしても接近戦でカウンターから組み立てる攻ハイペースな撃を回避することは難しかった。こうした状況が続けば嫌でも消耗する。一方的な展開、後半ストップの可能性もある。

 何れにしても戦略が重要。ロマチェンコにフラストレーションを溜めさせハイテクを機能不全に陥らせば中谷に勝機は十分ある。前半からプレスをかけながら一定の距離を保ちジャブやワンツー、パワーショットで下がらせペースを掴みたい。

 と簡単にいってはみたが、中谷が直面しようとしている相手は世界最高の相手なのだ。

 一方、ロマチェンコのコンディションはどうなのか。

 ロマチェンコは右肩に古傷がある。リナレス戦で右肩を痛め関節鏡の手術を受け完治したと思われたが、ロペス戦のトレーニング・キャンプで右肩に痛みが生じ、痛み止めの注射を打ちトレーニングできなかったという。

 ロペスに敗戦したことの影響はどうでるのか。

 敗戦はプロ2戦目オルランド・サリド(メキシコ)戦以来のこと。サリド戦から再起を果たし王座を獲得したラッセル・ジュニア戦と異なるところは、適正階級を超えてしまっているところだ。だが、中谷を軽視するようなことはなく最高のコンディションに仕上げロペスとの再戦、世界戦を含め存在感をアピールするつもりであることは間違いない。

 もし、中谷が戦略どおり戦えばロマチェンコはロペス戦以上に苦戦する可能性があるが容易ではない。ロマチェンコを苦戦させることができるサイズ、パワー、メンタル・タフネスといったアビリティは揃っているが、相手の持っているスピード、クイックネス、高いリングIQは強力なものである。

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中谷対ロマチェンコ結果

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 中谷を圧倒、格の違いをみせつけたロマチェンコはベスト・バージョンだった。中谷に付け入る鋤を全く与えなかった。1回こそいつも通り様子見ムードだったが、徐々にペースをあげ左ストレートを軸にした攻撃で試合の主導権を握ると的中率の高い左右のパワーショットで中谷にダメージを与えストップ勝ちした。

 1回、中谷はパワージャブで牽制。ロマチェンコに中に入られると厳しかったが、左ボディ、右ストレートのリターンと決して負けてはいなかった。ラウンド後半、偶然のバッティングでロマチェンコが額をカットした。

2回、中谷は、攻勢を強めたがロマチェンコはサイドにスリップし左ストレートから速いコンビネーションを繋げ一気に畳み掛けてくる。中谷はサイドからの攻撃は上手く交わしたが中に入り込まれるときつくクリンチで分断。泥臭いがこうでもしないとロマチェンコは止められない。

 大きな展開はないがロマチェンコのパワーショットがコネクト。コンディションがよく見えるロマチェンコは仕留めるつもりだろう。手数が多いように見えるが中谷と殆ど変わらない。そのかわり運動量は多い。絶え間なく頭は動き小刻みにフットワークしポジションを変える。

 対戦相手の殆どがこの動きに翻弄され手数が少なくなり回転の速いコンビネーションの餌食になってしまう。6回、中谷のクリンチに嫌気が刺したロマチェンコは、クリンチの際に小さな空間を作りショートの連打を見舞った。プッシュしたかのようにみえたがレフェリーはダウン判定。

 7回、一方的な展開になりはじめ中谷はノックアウト勝ちしかないが戦況は厳しい。ロマチェンコの左ストレートで跳ね上げられた右目はクローズ寸前。殆ど見えてないかもしれない。ラウンドが終わりを告げるゴングがなると中谷は効いてないとアピールするがダメージが蓄積していることは明らかだった。

 9回、フィニッシュの機会を探すロマチェンコ。ロマチェンコの左ストレートをまともにもらった中谷はグラつき堪らずクリンチしてサバイブするが、ロマチェンコのボディ、左右の容赦ないアタックを貰いレフェリー・ストップとなった。

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中谷対ロマチェンコ動画

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ロマチェンコの次戦はどうなるのか

 勝ったロマチェンコ。タイトル再挑戦のシナリオは。

 ロペス再戦の期待は高まっている。もちろん、まだなにも具体化してないが、2021年後半戦、規制が完全撤廃された米ニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)で挙行すれば大きな話題になるだろう。

 ロペスは6月にIBF指名挑戦者ジョージ・カンボソス(オーストラリア)戦へ臨むはずだったが直前で、新型コロナウイルスの検査で陽性。当初、8月にリスケされると報じられていたが10月以降にずれ込む公算が高く先行きは不透明な面がある。

 何れにしてもロマチェンコがライト級で強烈なアピールしたことにちがいはない。

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