IBF世界ライト級タイトルマッチが米カリフォルニア州テメクラで行われ、王者リチャード・コミー(ガーナ)が、レイ・ベルトラン(メキシコ)と対戦し計4度のダウンを奪い8回TKO勝ちでIBF王座初防衛に成功した。コミーは、初回からタフなベルトランを押し込み2度のダウンを奪い5回にも追加のダウン、最後はレフト・フックが火を吹きレフェリー・ストップで幕を閉じた。

 「ベルトランは素晴らしいファイターだった。初防衛を無事終えることができてほっとしているよ」

 ベルトランが体重超過を犯し試合開催が危惧されたが無事開催となった。タフなベルトランから計4度のダウンを奪ったコミー、チャニエフに続き印象的な勝利を飾った。ライト級ではWBA・WBO世界ライト級統一王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が傑出した存在だが、”ジャーニーマン”のコミー、ベルトランと打ち合いタフネス、メンタルを証明し強い存在感を示した。

 初防衛に成功したコミー次戦は、7月米メリーランド州オクソンヒルで行われるテオフィモ・ロペス(米)対中谷正義(井岡)戦の勝者と指名戦を行う見通しとなっている。

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 コミー、ベルトラン、この2人は対称的なキャリアを歩んでいる。自国にマーケットがないコミーは、自分で道を切り開いてゆくしか無い世界各地を渡り歩くジャーニーマンだ。

 世界タイトルマッチのチャンスを得られたのはプロ25戦目。本来であれば、今戦はWBA・WBO世界ライト級王座統一王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と統一戦のはずだったが、拳の怪我でロマチェンコ戦は延期となりベルトランが初防衛戦の相手となった。

 一方ベルトラン、体重超過とドーピング違反の前科があるが有力プロモータートップランク社と契約を結んでいるだけあり、多くのチャンスを与えられてきている。今回、2018年2月初防衛に失敗したばかり、再起戦を経て再びチャンスを与えられたが、その期待を裏切る結果となった。体重超過の失態を犯し計量に失格、ベルトランはタイトル挑戦の資格を失った。

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ベルトラン、コミー戦で体重超過の失態

image source to:The Ring

 また、ベルトランが体重超過の失態をやらかした。体重超過、ドーピング違反を犯しながら謹慎期間を経て所属する米有力プロモーター、トップランクから当てがられたセカンド・チャンスを自ら棒に振った。

 ボクシング・ファンなら忘れもしない。2015年5月ベルトランはWBO同級1位の粟生隆寛と空位のWBO王座決定戦の前日計量で体重超過の失態を犯している常習犯だ。もちろん、粟生は一発で計量をパスしている

 粟生はベルトランに勝てば王座を獲得できたが、減量苦には見えずコンディション良好のベルトランに2回TKO負けを喫した。しかし、その後試合を管轄したNSAC(ネバダ州アスレチック・コミッション)の薬物検査でベルトランの検体から禁止薬物が検出されドーピング違反が発覚。コミッションは、ベルトランに対し罰金と90日間の出場停止処分を言い渡し、粟生隆寛戦は無効試合となった。

 今回、ベルトランは計量前日でライト級リミット135ポンドを大きく上回る139パウンド(約1.8キロオーバー)あったという。計量で1.5ポンド・オーバー、2時間後の再計量を拒否したベルトランは失格となった。

 トップランク社とコミーをプロモートするルー・ディベラ氏のあいだで協議の結果、ベルトランに対し試合当日の朝計量で10ポンド以内(146.8ポンド)に収めることを条件に試合を開催することを合意。試合当日、ベルトランは145.6ポンド規定内に収め無事開催することになった。

 当初はスーパーライト級で王座返り咲きを狙うはずだったものライト級でのタイトルチャンスを選択したのは、トップランク陣営の意向もありベルトランは選択の余地がなかったかもしれないが、多くの信頼を失ったことに変わりはない。

 トップランクがドーピング違反に加え体重超過の失態を犯したベルトランにセカンド・チャンスを与えたのは、ファンの期待を裏切らない好ファイトを繰り広げるベルトランの集客力も関係している。北米のボクシング市場は興行において右肩あがりに増加するヒスパニック層の影響力を無視できない。ベルトランはメキシコ生まれだが、現在はカリフォルニア州フェニックスに居住。何れにしても優遇されていると言わざる得ない。

 ドーピング違反の謹慎処分が明けNABFタイトルを獲得して、3年の歳月を経て2018年2月に空位のWBO王座決定戦でモーゼスを下し王座返り咲きに成功。しかし、迎えたオリンピアンのホセ・ペドラサ(プエルトリコ)との重要な一戦は判定負けで王座から陥落した。ペドラサに勝っていれば、ロマチェンコとの統一戦で100万ドル(約1億1270万円)の報酬が約束されていた。

 その後、トップランクと契約した新鋭の岡田博喜(角海老)のテストマッチ。もちろん、ベルトランはアンダードッグの意味合いもあるが、米国初戦で苦戦を見せた岡田は、まだ本物であるか見極めるためボブ・アラム氏がベルトランをアサインしたのだろう。岡田を9回TKOで下したベルトランは、今回のチャンスを得た。

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コミーのバック・グラウンド

 一方のリチャード・コミー、ガーナ出身、母国に大きなマーケットがないだけにホープとしてマニアのあいだでは知られていたもの、実力者でありながら世界タイトルマッチにたどり着くまでの道のりは険しかった。

 コミーは世界各国を渡り歩くジャーニーマン、現在は米ニューヨークのブロンクスに居住している。母国ガーナでキャリアを積んだコミーは、英国、デンマーク、南アフリカと世界各地を転々とし、アフリカタイトル、IBF地域タイトル、コモンウェルス英国連邦タイトルを獲得。2015年、ザウアーランド氏と契約を結びプロ25戦目にして、ようやく世界タイトルマッチの挑戦が叶った。

 相手は、ライト級で規格外のフレームをもつ期待の米国人ロバート・イースターJr.と空位のIBF王座を争うことが決定。高等技術を持つもの同士の高いレベルの好ファイトとなり8回コミーがダウンを奪ったが、12回2−1(115−112,114−113,113−114)の判定負け。判定の結果は物議を醸したが、プロ初黒星を喫した。

 その後、コミー陣営はIBF(国際ボクシング連盟)にダイレクト・リマッチ(即時再戦)を要請。ダイレクト・リマッチの承認は通らなかったもの、ライト級トップコンテンダーの1人、デニス・シャフィコフ(ロシア)とイースターJr.への挑戦権を賭けたIBF指名挑戦者決定戦出場の権利をとりつけることに成功した。

 しかし、指名挑戦者決定戦の交渉は合意に達することなく、興行権は入札に持ち込まれシャフィコフをプロモートするウォーリアーズ・ボクシングが6万1000ドルで興行権を落札。イベントは、世界戦とは思えないほどの小さな会場で行われた。身体は小さいがモビリティに優れるシャフィコフが勝ちイースターJr.へ再挑戦する道は途絶え、結果を出せなかったコミーは、ザウアーランドから契約打ち切りを言い渡された。

 その後、再起戦を経てニューヨークを中心にイベントを開催するディ・ベラ・エンターテイメントを主宰するルー・ディベラ氏と契約を結ぶことに成功。2試合を行いマイキー・ガルシア(米)が王座を明渡し空位となったIBFライト級王座決定戦をイザ・チャニエフ(ロシア)と争うチャンスを得た。

 1戦目は米国、2戦目はロシアと完全アウェイ。しかも、1戦目は内容的には勝っていた。北米の地がホームでないファイターが接戦の場合、勝つことは難しい。勝敗よりも内容で示さなければこの地では生き残っていけないとコミーは肌で感じただろう。
 
 迎えたチャニエフ戦で空位のIBF王座決定戦のチャンスを得た。北米のリングで、ガーナ人とロシア人が戦う。両者の思いはゴングと同時に交錯する。思いが強かったのはコミーのほうだ。

 1回、コミーの右ストレートがチャニエフを捉えダウン。2回、はやくも優勢になったコミーは抜かりなく攻勢に出て打ち合いの中、オーバーハンドがチャニエフの顎を打ち抜き2度目のダウン。その後、チャニエフは何とか立ち上がったが後退、コミーはすぐさま追撃を仕掛け3度目のダウンを奪いレフェリー・ストップに追い込み王座獲得に成功した。

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コミーがベルトランに勝ち初防衛に成功

 終始、主導権を握っていたのはコミーだった。ソリッドなジャブは正確でベルトランの前進を止めるのに有効だった。一方、ベルトランはベテランの意地を見せたが、攻防が高いレベルにあり、スピードで上回るコミーを止めることはできなかった。

 Compuboxのパンチ・スタッツは、コミーはトータルパンチで的中率は33%(489発中160発)、ジャブは13%(176発中23発)、パワーパンチは44%(313発中137発)、ベルトランはトータルパンチ29%(323発中92発)、ジャブは11%(53発中6発)、パワーパンチは32%(270発中86発)となっている。

 タフなベルトランを前にださせると厄介。1回、コミーはプレスをかけリングをカット。ベルトランの攻撃はパーリ、ブロックで丁寧に外し、1分30秒たったところで左フックから右のハード・ショットでベルトランからダウンを奪った。

 その後、チャンスとみたコミーはベルトランをコーナーまで追い込みゴング終了前、ベルトランも打ち返すなかでスタンディング・ダウンを奪い、ベルトランは1回に計2度のダウンを喫し劣勢に追い込まれた。

 4回、コミーは1回に計2度のダウンを奪ったが、フィニッシュを急がなかったのはベルトランの強打を警戒したのだろう。コミーの左フックのカウンター、右ストレートの追撃を食ったベルトランは後退を強いられ、厳しい状態が続いた。

 5回、さすがにタフが売りなベルトランも疲れがみえはじめ、左フックでグラつきコーナーに追い込まれ3度目のダウン。ただ、ダウンしたとはいえベルトランのパンチは生きておりコミーは慎重に攻めた。

 中盤意以降、フットワーク、ジャブを起点にベルトランの体力を着実に削ったコミーは8回、左フックのカウンターで4度目のダウンを追加してレフェリーが試合を止めた。

 負けたベルトランはスーパーライト級で再起を臨んでいる。無理な減量は健康問題にも関わるため強制することは難しい。しかし、近年では無理に減量して階級を落とすケースも少なくない。コミッションによる厳重な処罰とあわせ陣営サイドの適正体重の見極めをしなければ、世界タイトルにおける体重超過は繰り返されるだろう。

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今後はどうなるのか

 ベルトランを下したコミーは、次戦はIBF(国際ボクシング連盟)による指名戦となる公算が高い。

 一度は、合意したWBA・WBO世界ライト級統一王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)戦も路線としてあるがロマチェンコはキャンベル戦が英国開催で基本合意、夏の終わり頃開催に向け最終調整が行われている。統一戦が合意すればIBFの指名戦は免除されるが、期間が開くことから指名戦になるだろう。

 IBFライト級挑戦者決定戦が7月19日米メリーランド州オクソン・ヒルにあるMGMナショナル・ハーバーで、同級3位中谷正義(井岡)と同級4位テオフィモ・ロペス(米)のあいだで行われる。

 トップランク社のホープ、ロペスはワシル・ロマチェンコ戦が持ち上がるほど大きな期待がかかるスター候補だ。プロ通算13戦全勝11KO。注目度は高く2018年、米国で最も権威あるリング誌とESPN(米スポーツ専門チャンネル)は、ロペスをその年の年間最高の若手有望選手として選出している。

 米ニューヨーク、ブルックリンで生まれ育ったロペスは、6歳の時フロリダに移住。ロペスは父親であり後にトレーナーとなるテオフィモSr氏の影響でボクシングをはじめた。ナショナル・タイトルを獲得、アマチュアのキャリアも豊富だ。

 戦績は150戦20敗、2016年リオ五輪1回戦で敗退してしまったが、両親の出身地であるホンジュラス代表としてライト級で出場した。2015年にはナショナル・ゴールデングローブ賞を獲得している。

 まだ、ライト級では中堅レベルの相手としか経験はなく、ライト級屈指のトッププロスペクトに違いないが、打たれ強さやメンタルは証明されてない。ただ、このクラスではスピード、パワー、瞬発力、反射スピードは世界水準に到達していることは間違いない。

 一方で、中谷もロペスと同じく18戦全勝12KO、ロペスは「ナカタニは俺をストップすることはできない」と息を巻く。「テオフィモが中谷を下しコミー戦に進めばとんでもない戦いになるだろうね」ロペスをプロモートするトップランク社ボブ・アラム氏は、ロペス勝ち前提で話を進め中谷はアンダードッグ扱い、米国トップ・プロスペクトのロペスを止めれば大番狂わせになる。

 今後は、IBFの指名挑戦者決定戦、ロマチェンコ対キャンベルのオリンピアン対決、早ければ来年にも4団体統一戦が行われそうだ。

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